人間の脳をまねて人工知能が開発されています。ディープラーニングが社会をかえつつあります。人工知能がいつの日か人間をおいこすとかんがえられています。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年9月号が人工知能を特集しています。人工知能の開発は現在進行中の情報革命の核心といってもよく、人工知能について理解しておくことは必要なことです。『Newton』の今回の記事は、初心者むけにわかりやすく解説していてとても参考になります。



人工知能(AI)でもっともいま注目されているのは「ディープラーニング」です。ディープラーニングとは、「ニューラルネットワーク」とよばれる手法を発展させたものであり、ニューラルネットワークとは人間の脳の仕組みをまねて人工知能に学習させる方法です。


脳は、たくさんの「神経細胞(ニューロン)」からできていて、神経細胞どうしがたがいにつながってネットワークを形成しています。一つの神経細胞は、「シナプス」とよばれる接続部分を通じて、ほかの多数の神経細胞から信号を受け取ります。そして、受け取った信号の総量がある一定の大きさをこえると、その神経細胞はほかの神経細胞へ信号を送ります。脳は、こうして神経細胞が次々と信号を伝えていくことで、情報を処理しています。


このように人間の脳は、多数の神経細胞がつながってネットワークをつくり、膨大な情報を処理します。

ニューラルネットワークでは、脳でいうところの神経細胞のはたらきをコンピューター上のプログラムをつかって「人工ニューロン」として実行します。人工ニューロンは、複数の入力値をうけとって、いくつかの計算をそれにほどこした数値を出力します。多数の人工ニューロンを複数の層にわけてつないで情報を処理するのがニューラルネットワークです。

こうして人工知能技術者たちは、人間の脳の神経細胞のはたらきをコンピュータープログラムでまねることによって人工知能を開発しています。

人工ニューロンがうけとる入力値には「重み」とよばれる数値(係数)がかけられます。重みとは、人間の脳の神経細胞でいうとシナプスのつながりの強さにあたります。重みの値がおおきければ、前の人工ニューロンからうけとった値が増幅され、このことは、それらの人工ニューロン間の情報がつたわりやすいことを意味します。ニューラルネットワークでは、この重みの値を変化させて、人工ニューロン同士のつながりの強さをかえていくことで「学習」をおこないます。

たとえば3層にかさねた(つなげた)ニューラルネットワークをかんがえると、最初にデータをうけとる層を「入力層」、最終的な結果をだす層を「出力層」、入力層と出力層のあいだの層を「中間層(隠れ層)」といいます。

このようなニューラルネットワークの層を、10層、20層とたくさんかさねたものが「深層ニューラルネットワーク」であり、これによって学習をおこなうのが「ディープラーニング(深層学習)」です。

ディープラーニングが開発されたことによって、物がもっているさまざまな特徴を、人間が指示しなくても、人工知能みずからがみつけだせるようになりました。しかも人工知能がみつけだす特徴には、画像における画素と画素の複雑な関係のような、明確な言葉で人間があらわせないような、とらえきれないようなものもふくまれ、人間よりも精度のたかい予測ができる場合があります。

ディープラーニングによって人工知能は、独自の観点で物事の特徴をつかみます。たとえばヒマワリを認識するとき、人間のように「花びらの色や形」ではなく、人間にはとらえられないような何らかの特徴をもとにしてヒマワリだとそれを判断しているのかもしれません。さまざまな概念を人工知能が獲得したとしても、その中身は、人間にはわからない「ブラックボックス」になります。人工知能は、人間の脳の仕組みをまねてはいますが、それをただ単におきかえたものではない点に注意してください。




人工知能の開発によって社会は急速に変化しつつあります。人工知能がこのまま発展しつづければどんな未来がおとずれるのでしょうか。人工知能が人間の知能をこえ、人間のあらゆる仕事を人工知能が代替するようになるのでしょうか。そしてあらゆる人間が人工知能に支配される社会が到来するのでしょうか。

人工知能が、自分よりもかしこい人工知能をみずからつくれるようになる時点のことを「シンギュラリティ(技術的特異点)」といいます。またはその結果、急速に進化した人工知能が、人間には予測できない社会の変化をひきおこすという考えもシンギュラリティといいます。アメリカの人工知能研究者のレイ=カーツワイル博士(1948〜)は、人の脳と “融合” した人工知能がうまれ、シンギュラリティが2045年におこると予想しています。一般の研究者のあいだでは、シンギュラリティはそう簡単にはおこらないだろうという意見がおおいですが、一方で、人工知能は今後とも進化をつづけ、いつの日か人間をこえるであろうということはおおくの研究者が同意しています。

人工知能を利用するのか、それとも人工知能に支配されるのか? 未来をきめるのはわたしたち人間です。ヨーロッパ文明に端を発する “機械文明” を今後ともつづけていくのでしたら、わたしたち人間は、機械にあわせて生活し、機械に支配され、人工知能のいいなりになって生きていくことになるでしょう。そうではなく、「生命文明」に文明を転換し、人工知能を「利用する」道を選択したほうがよいとわたしはかんがえます。

人工知能とはいいかえれば高度な情報処理装置(〈インプット→プロセシング→アウトプット〉装置)です。それは、人間の情報処理の仕組みをまねてつくりだされたものですから、そもそも人間が高度な情報処理をする存在であることが再認識できます。人工知能の研究開発がすすんだことにより、人間の情報処理の仕組みも一層よくわかってきたという側面もあります。

したがって人工知能の開発をすすめるのでしたら、他方で、人間の情報処理能力(人間主体の情報処理能力)の開発もあっていいはずです。人間の情報処理能力はすでに限界にきているとはとてもかんがえられず、訓練によってまだまだのばせるのではないでしょうか(注)。わたしはこの点に希望をもっています。人間の情報処理能力をのばしつつ、人工知能も利用するという道をわたしたちは選択すべきであり、人工知能に依存する道にはすすまないほうがよいでしょう。依存の先には、堕落と管理社会がまっているだけです。



▼ 注
たとえば近年、従来の読書法とはことなる「速読法」を実践できる人間が訓練によって出現してきています。

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▼ 参考文献
『Newton』2019年9月号、ニュートンプレス、2019年

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