おおまかな数をまずは理解します。数につよくなると認識がふかまります。未知の分野にもはいっていけます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年7月号の Newton Special では、「数に強くなる」と題して、おおきな数をおおまかにとらえるコツを解説しています。



PART 1 大きな数のとらえ方
PART 2 指数の威力
PART 3 対数の世界


四捨五入
「牛乳 198円」,「ピーマン 128円」,「豚肉 777円」,「リンゴ 98円」,「サバ 537円」を買い物かごに入れたとしましょう。合計でいくらになるでしょうか。(中略)

それぞれの値段(数値)の先頭から2桁目を四捨五入することにして、200円、100円、800円、100円、500円としましょう。その答えは1700円。


正確な合計金額は1738円ですから、それなりにつかえる値です。数につよい人は四捨五入をしてすばやく計算しています。このような、四捨五入などによってえられたおおよその数を「概数」といいます。



「分ける」&「置きかえる」
昨年末、2019年度の日本の国家予算(一般会計)が、100兆円をこえたというニュースが話題となりました。この「100兆」という数がどれほどの大きさなのか、すぐに実感するのはむずかしいのではないでしょうか。(中略)

日本の人口は約1億2000万人ですから、100兆をざっくりと1億で割ると100万円、1億2000万で割ると約83万円になります。


83万円という金額でしたら個人でもイメージできるとおもいます。おおきな数は、「国民一人あたり」などのように数を「分ける」と実感しやすくなります。おおきな面積を実感するために、「東京ドーム○○個分」というように別のものに置きかえてもよいです。



接頭辞
デジタルカメラの解像度(画素数)をあらわす「メガピクセル」や、スマホなどのメモリ容量をあらわす「ギガバイト(GB)」という言葉をよく耳にするでしょう。(中略)

メガ(M)は100万をあらわし、ギガ(G)はメガの1000倍、つまり10億をあらわします。これらの接頭辞は、数の桁が3桁変わるごとに名前がつけられていて、ギガの1000倍は「テラ(T)」、さらに1000倍は「ペタ(P)」・・・とつづきます。


デジタル機器の進歩は、キロ(k: 103)→ メガ(M: 106)→ ギガ(G: 109)→ テラ(T: 1012)→ ペタ(P: 1015)ととらえることもでき、デジタル機器の性能を把握するためにはこうした接頭辞の意味(おおきさ)をしっていなければなりません。

巨大な数をあらわす言葉にはほかにもいろいろあり、たとえば 1 のうしろに 0 が 100 個ならぶ数(10100)は「ゴーゴル(googol)」とよばれ、巨大企業 Google(グーグル)の名前の由来となっています。日本語では、1 のあとに 0 が68個ならぶ「無量大数」がしられています。



指数
非常に大きな数をさして「天文学的数」ということがあります。(中略)

こうした大きな数をあつかうのに便利なのが「指数」です。「103」のように、数字の右肩に置かれた小さな数字が「指数」です。10は「10の3乗」と読み、「10を3回かけあわせた数」を意味します。


たとえば観測可能な宇宙の大きさは「1027メートル」とかくことができます。指数は、おおきな数をあつかいやすくする技であり、指数をつかえば桁をよみまちがえることもなくなります。



指数関数
一つの細胞が1分間で二つに分裂するとしましょう。分裂した二つの細胞は、その1分後にそれぞれがまた二つに分裂します。これが次々とくりかえされることで、細胞の個数は時間が経つにつれて急速に増えていきます。

このような倍々に増えていく関係は、数式では、「y=2x」と書きあらわすことができます。


倍々に数がふえていく現象は自然界でもあちこちでみられます。細胞分裂はそのよい例です。上記の「y=2x」において、y は「細胞の個数」、x は「経過時間(分)」をあらわし、x にすきな値(時間)をいれることで、そのときの細胞の個数をしることができます。このような数式を「指数関数」といいます。

指数関数をグラフにあらわすとその変化のようすがよくわかります。



対数
デシベルは対数をつかって、
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とあらわします。 P は音量を知りたい音の音圧、P0 は人が聞きとれる最小の音圧です。この数式は大まかにいうと、音の大きさのちがいによる、音圧の「桁」の変化の度合いを示しています。音圧が10倍になるとデシベルの値は20増え、100倍になると40増え、1000倍になると60増える、といったぐあいです。つまり音圧が1桁大きくなると、デシベルの値は20増えるわけです。


デシベル(dB)をつかえば、人がききとれる最小の音は 0 dB、ジェット機のエンジン音は 120 dB と、わかりやすい数値で音量を表現することができます。

音の正体は空気振動です。空気振動のつよさ(音圧)がおおきいほどおおきな音としてきこえます。この音圧は、人がききとれる最小の音では約 10-5Pa(Pa は圧力の単位、パスカル)であり、普通の会話の音では 10-2Pa ほどであり、ジェット機の騒音は 10Pa ほどであり、最小の音の 100 万倍もおおきな値になります。このように、音圧の数値をそのまま音量の指標にするのは不便なため、デシベルが考案されました。

指数関数「y=ax」の yx をいれかえると「x=ay」となります。この式を、「y=」の形になおすと「y=logax」、つまり対数関数になります。指数関数と対数関数は、yx をいれかえた関係にあり、このような関係にある関数を「逆関数」とよびます。






どの分野であっても、その分野に関する重要な数値をおおまかでもよいのでしっておくとその分野の認識がふかまり、他者への説明もしやすくなります。

たとえば音楽ファンが、サントリーホールでのコンサートの感想などをのべるとして、「とても大きなホールでした」というのと、「約2000人を収容できる大きなホールでした」というのとでは理解のレベルがことなります。

「とても大きな」といわれてもどこと比較してのことなのかわかりません。たとえば東京の主要なコンサートホールの収容人数をみると、NHK ホール 約3800人、東京文化会館 約2300人、サントリーホール 約2000人、オペラシティコンサートホール 約1600人、日本橋三井ホール 約1000人など、さまざまであり、ホールのおおきさによって音響はおおきくことなります。

ある分野にくわしい人は、その分野に関する重要な数値もしっています。定量的な話もできるかどうかで、その分野にくわしいかくわしくないかがわかります。専門家と素人の基本的なちがいがここにあります。あるいは専門家ぶる人であっても、定量的な議論ができないのであれば偽者だとわかります。

一方で、たとえば必要にせまられて、自分にとっては非専門的な分野、未知の分野をまなばねばならなくなったとき、定性的な知識にくわえて、その分野の重要な数値もあわせておぼえるようにすると、あたらしいその分野に比較的短時間ではいっていくことができます。定量的なことも理解し、のべられるようになると、その分野の専門家ともほぼ対等に話ができるようになります。「どうせ素人だろう」とおもって相手をバカにしていた “専門家” が、重要な数値をその相手がのべたとたんに態度をあらためたという例がよくあります。

したがっておよその値でもよいので重要な数値を理解し、おぼえておくとよいでしょう。



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▼ 参考文献
『Newton』(2019年7月号)ニュートンプレス、2019年

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