環境汚染を軽減するために化学の知識と方法が必要です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年6月号では「とことんわかりやすい “見る教科書” 化学」を特集しています。



PART1 キッチンの化学
PART2 家電製品の化学
PART3 暮らしの化学


PART1 キッチンの化学

アボガドロ定数
アボガドロ定数は、炭素12グラムにふくまれる炭素原子の数が元になっており、「約6.02X1023」です。「6.02X1023」と毎回かくのはめんどうなので、これを「1モル(mol)」とあらわします。

浸透圧
細胞をおおう細胞膜は、塩(塩化ナトリウム)はとおしませんが、水はとおします。このような性質の膜のことを「半透膜」といいます。魚に塩をふると表面に水がしみでてきます。水は、塩分のこい側へ移動してきます。このように、半透膜を介して水を移動させる圧力を「浸透圧」といいます。

酸と塩基
すっぱい味のように、酸の水溶液がもつ性質のことを「酸性」といい、それと対をなす性質は「塩基性」または「アルカリ性」といいます。食材のほとんどは酸性です。

中和
酸性とアルカリ性がうちけされる反応を「中和」といいます。

有機化合物
炭素原子(C)が骨組みとなり、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)などが結合した分子のことです。有機化合物は7000万種類あるといわれますが、登場する元素はこれらがほぼすべてです。有機物は、さまざまな有機化合物の集合体であり、「生物から得られるもの」をもともとは意味していましたが、現在では工業的につくりだすこともできます。

官能基
いい香りも、くさいにおいも、香りをもたらす物質のほとんどは有機化合物であり、空気中をただようちいさな有機化合物が香りの正体です。有機化合物のこのような性質は、おおまかにいえば、炭素の数と官能基の種類によってきまります。官能基とは、有機化合物の分子を構成する「部品」のことで「機能をあたえる部分」を意味します。



PART2 家電製品の化学

レアメタル
地上に存在している量のすくなさや、採掘方法のむずかしさなどから希少性がたかいとされる、経済産業省が指定した金属元素の総称です。原子番号57〜71の元素をはじめとした一部の元素は「レアアース」といいます。スマホや家電製品にはレアメタルが必要であり、レアメタルを確保することは現代産業の生命線です。廃棄される家電製品にふくまれるレアメタルを「都市鉱山」と名づけ、リサイクルする試みがすすめられています。

リチウムと電池
リチウム原子はレアメタルのひとつであり、充電池に欠かせません。リチウムイオン電池の内部ではリチウムは、電子を手放してリチウムイオンになり、負極から正極に移動します。このときに、リチウムから手放された電子の移動によって電流が生じます。原子がちいさくてかるいというリチウムの性質は小型で軽量の電池をつくるために役立ちます。

酸化・還元
酸素と反応するなどして、ほかの物質に電子をうばわれる化学反応のことを「酸化」、ほかの物質から電子をうばう化学反応のことを「還元」といいます。たとえばアルミニウムなどは、空気中においておくだけでも酸化します。酸化によって金属の表面にできたうすい膜状の酸化物を「酸化皮膜」といい、酸化皮膜でおおわれるとその下にある金属がまもられ、その状態を「不動態」といいます。アルミニウムでできたスマホの外装などでは酸化皮膜を意図的に厚くし、その下の酸化をふせいでいます。このような加工を「アルマイト加工」といいます。

ガラス
固体のなかで、原子や分子が規則ただしく整列している状態のものを「結晶」といいます。ガラスは、一見すると普通の固体ですが、その内部は、原子や分子が液体のように不規則にならんでいます。このような状態を「非結晶質(アモルファス)」とよびます。この性質のため、ガラスは、加熱するとすこしずつやわらかくなり、加工しやすいという特徴をもちます。


液晶
液晶ディスプレイでつかわれている液晶は、固体と液体の中間に位置するような状態の物質であり、発見当時は「流れる結晶」とよばれていました。液晶にかかる電圧を制御して光のねじ曲げられ方を調整すると光のつよさをかえることができます。

気化熱
物質が、液体から気体へと状態変化するときに、まわりからうばう熱を「気化熱(蒸発熱)」といいます。冷蔵庫やクーラーが空気を冷やすときには「冷媒」という物質の蒸発にともなう気化熱を利用します。冷媒は、地球のオゾン層を破壊する「フロン類」にかわり、最近では、イソブタンなどがつかわれます。



PART3 暮らしの化学

燃料電池

水の電気分解では、電気の力をつかって水素と酸素に水を分解します。その逆に、水の電気分解がおこった装置の電源をきると電流が逆流します。このように、水の電気分解の逆反応によって発電するのが「燃料電池」です。燃料電池は、地球温暖化を加速させる二酸化炭素を排出しないクリーンな「水素社会」を実現するために欠かせず、東京都は、100台以上の燃料電池バスを2020年までにはしらせることをめざしています。

触媒
化学反応にかかわっていながら、反応の前後で何も変化しない物質を「触媒」といいます。たとえば車の排気ガスにふくまれる一酸化炭素や二酸化窒素などの有害な物質は、触媒によって分解されてから排出されます。またキッチンにあるグリルのフィルターには、煙やにおいの成分を分解する触媒がくみこまれているものがあります。

プラスチック
有機化合物を人工的につなげてつくる「合成高分子」のうち、熱や圧力をくわえることで成形・加工がしやすいものです。代表的なプラスチックは、レジ袋などにつかわれるポリエチレンと、ストローなどにつかわれるポリプロピレンです。プラスチックはほとんど分解されないため、深刻な環境汚染をひきおこしています。



資料編:周期表
これまでに118個の元素が発見されており、これらを、原子番号順(電子の数がすくない順)にならべた表を「周期表」といいます。周期表では、縦の列を「族」、横の列を「周期」といいます。

第1族、第2族、第12〜18族ではおなじ族の元素同士の性質がよく似ています。一方、第3族〜11族の元素では、おなじ族の元素よりもおなじ周期の元素同士の性質が似ています。






2019年は、メンデレーエフが元素の周期性(周期律)を発見してから150周年にあたります。これを記念して今年は、ユネスコによって「国際周期表年」とさだめられました。周期表は、物質の法則を理解するためにとても重要です。

英語で化学を意味する Chemistry は、Alchemy(錬金術)に由来し、錬金術師たちは、ありふれた金属を金などの貴金属につくりかえようと試行錯誤をしました。ニュートン(1642年〜1727年)も物理学だけでなく錬金術にもとりくみました。錬金術そのものは失敗におわりましたがさまざまな実験から化学が発展しました。したがって最初から化学は実学でした。

現代では地球上に化学物質があふれかえっています。しかし近代文明(機械文明)は経済と開発を優先したために環境汚染がいちじるしくすすんでしまいました。今後、開発途上国が経済発展していくなかで地球環境の破壊がさらにすすすむと予想されます。

そこで先進国は、環境破壊を軽減していくための化学研究を率先しておこなわなければなりません。

たとえば「生分解性プラスチック」の研究などが注目されます。生分解性プラスチックとは、微生物などの生き物が分解できるプラスチックであり、「ポリ乳酸」はその代表です。海洋中で自然に分解がすすむものも研究されていて、「生分解性ポリマー」などが注目されます。

しかし問題は、経済的に採算がとれるかどうかです。企業は、採算がとれないことは普通はやりません。したがってわたしたち一般市民に、環境汚染をしない商品を優先して買う行動がもとめられます。このような状況が一般的になれば、国や自治体も研究補助金をだしやすくなります。国民の理解が不可欠です。

そのためには、環境汚染を軽減していくための化学の知識と方法をおおくの人々が認知しなければなりません。『Newton』の社会的・歴史的役割は甚大です。『Newton』のイラストはたいへんわかりやすいので、あとは、日本語をもっとわかりやすくすることが課題です。日本語の作文技術(注1)をつかえば、レベルはさげないでわかりやすい文章をかくことが十分に可能です。アウトプットではわかりやすさが肝要です。



▼ 参考文献
『Newton』2019年6月号、ニュートンプレス、2019年

▼ 注1
本多勝一著『日本語の作文技術』をつかいこなす - まとめ -

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