大都市はますます発展します。食料生産の方法がどうかわるかが今後のカギになります。機械文明はいずれいきづまります。
『ナショナルジオグラフィック』2019年4月号の特集「世界の都市」では、世界的な建築設計事務所「スキッドモア・オーウィングス・アンド・メリル」(SOM)の未来都市設計案を紹介しています。




自然環境
未来都市は地形や気候に合わせて設計されるため、野生生物の生息地や自然資源は保護される。

水源や上流の水の汚染を防ぎ、雨水の徹底した集水・浄化によって水質を向上させる。

エネルギー
電力は100%再生可能エネルギーになる。都市やその近郊だけで十分な発電量が確保でき、自給自足が可能。

住みやすさ
自然環境が身近にあることに加え、システムの自動化が進んで、施設や交通が簡単に利用できるようになるため、健康的な生活が送れる。

ごみ
回収されたごみは、エネルギーや新たな素材を生み出す資源になる。汚水は処理して灌漑水や飲料水になる。

食料
食料の生産から配達・廃棄に至るまで、生産物のすべての過程を通じて自然環境の持続可能性を促進することが義務づけられる。また、有機農法や動物の取り扱いに関して国際基準が定められ、ほとんどの農産物が地元産になる。

機動性
移動は、自動運転の技術と高速鉄道の発達によって、現在より安全かつ便利になり、運賃も手頃な価格になる。

文化
歴史遺産が保存・尊重される。また、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術を利用することで、娯楽や芸術、エンターテイメントを世界中の人々と一緒に楽しむことができる。

インフラ
水や土壌、空気といった自然資源の質を向上させる技術が建物に組み込まれる。道路や鉄道は、車を使わなくても移動しやすいように設計され、車道はわずかしかない。

経済
人工知能(AI)や自動化技術の導入が今以上に広まることで人々の働き方が変わり、勤務時間もさらに自由度が高まる。






リサイクル、自動運転、人工知能、バーチャルリアリティ、スマートビルディング、クリーンエネルギーなど、SOM の設計案を実現するような兆候がすでにあらわれています。大都市はますます発展し、自然災害のリスクにもつよくなります。

ただしこの案では、食料生産は、農業あるいは自然環境に将来的にも依存するという想定です。この前提にたてば、人間は、自然環境の保全をおこない、自然環境の持続可能性を追求しなければならないということになります。SOM の案は、「自然を再生させて、急増する都市人口をささえてもらう」というコンセプトにもとづいています。

しかし一方で、食料も、人工的につくりだせばよいとかんがえる人々もいます。もし、食料の大部分が人工的につくりだせるようになったならば、人間は、自然環境の変動にもう左右されなくなります。旱魃や冷害・病害虫もなくなります。さらに「気象コントロール衛星」をうちあげ、気象もコントロールすればよいとかんがえる人々もおり、そうなれば、危険な大雨は除去でき、砂漠に雨をふらせます。このような方向に文明がすすんだ場合は、「環境にやさしく」というフレーズは死語になり、自然環境の保全は必要なくなります。

しかしやはり、機械文明がどんなに進歩しても、大地震や大津波、集中豪雨、洪水、火山噴火、気候変動などは克服できないのではないでしょうか。大災害や大事故をこれからも何回も経験するうちに、人間たちは反省して環境調和型の社会へ転換するのかもしれません。

また大都市の人々がもつおおきな課題はもっと便利になることであり、便利になるということは効率をあげるということで、実際、あらゆる物事を大都市に集中させることによっていちじるしい効率化をこれまでも実現してきたわけです。

しかし効率化をすすめすぎるあまり、大都市の人々は精神面でつかれはて、心の問題をかかえこむようになりました。今日、あらたな精神文化がもとめられています。

文明はいつも、技術革新が先行します。しかしその後、価値観の転換がおこり、精神文化の変革がおこります。都市文明がうまれたときも、前近代文明が勃興したときもそうでした。今回のマスタープランでは「文化」についても若干とりあげていますが、この課題についてもっと考察をふかめなければなりません。



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▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック日本語版』(2019年4月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2019年