環境に適応するように皮膚が進化しました。身体と環境は皮膚で直接しています。身体と環境の状態が皮膚にあらわれます。
『ナショナルジオグラフィック』2019年3月号の EXPLORE ではアフリカゾウの皮膚について解説しています。アフリカゾウの皮膚には無数のひび割れがあり、これは環境に適応した結果です。進化生物学者のミシェル=ミリンコビッチらはこのひび割れのできかたについて研究しました。



1 最初はスベスベ
  層が厚くなる
  圧力で割れる
2 水分たっぷり
3 泥で虫よけ


生まれたばかりのゾウの皮膚は表皮がなめらかで、その下にある「真皮」は「乳頭」とよばれる突起をもち、凹凸があります。

しかし年をとるにつれて真皮の上につみかさなる皮膚細胞の層(角質層)が厚くなり、角質層がおれまがると、つきでた乳頭間のくぼみにひび割れができます。ゾウの皮膚ははがれおちることがないので、表皮の厚みは人間の約50倍にもなります。

ひび割れた層が蓄積すると網目状の溝ができ、毛細管現象によって溝のなかに水がひろがります。このような皮膚はなめらかな皮膚にくらべて最大で10倍もの保水力があり、ひび割れの溝があることで水や泥が皮膚にとどまりやすくなり、日焼けや熱・寄生虫などによるダメージから身をまもる効果が持続します。

ゾウは、おおくの哺乳類とちがって汗をかかないので、皮膚についた泥や水から水分が蒸発することで体温調節をします。皮膚の割れ目に泥と水がどどまるので、つぎの水飲み場へ移動するまでのあいだに体が乾燥することはありません。

アフリカゾウ属には、アフリカゾウ(Loxodonta africana)とマルミミゾウ(Loxodonta cyclotis)の2種がおり、気温が30℃をこえることのおおいアフリカの乾燥した草原におもにすんでいます。ゾウは、嗅覚受容体遺伝子の数が人間の5倍もあるため、数キロ先の水や、木の中や地中にある水もみつけられます。ゾウの鼻には、最大11リットルもの水が入り、泥水を鼻ですいあげて体にふきかけ、水や泥で体をおおい、水がとぼしいときには砂をかけます。こうして日焼けや寄生虫から体をまもります。






このようにアフリカゾウの皮膚は、あたらしい皮膚が形成される際にもっとも外側の皮膚層に力がくわわることでひび割れが生じるのだとかんがえられます。ゾウは、気温がたかく乾燥した環境に適応するように独特な皮膚を発達させました。

皮膚は、身体をおおう膜のようなものであり、環境と直接して環境の影響をダイレクトにうけます。環境からの作用をやわらげたり、環境をうまく利用するために皮膚のはたす役割はとてもおおきいです。

このように皮膚は身体と環境の境界面であり、「緩衝装置」としての役割をになっており、単なる「防御装置」ではありません。〈身体-環境〉系という生命のシステムにおいて、身体と環境をつなぐ重要な役割をはたしているといってよいでしょう。(図1)。


190409 皮膚
図1 皮膚のモデル


わたしたち人間も、衣服でおおわれていない顔や手などは環境と直接しており、それらで環境を直接 感じとります。皮膚がよわいと環境からの影響をうけすぎたり、環境をうまく利用できなかったり、つまり環境に適応できません。

皮膚科の医師は、「皮膚は内蔵をうつす鏡である」といい、内臓や体内の状態が皮膚の症状としてあらわれることがすくなくないといいます。

しかし一方で、皮膚は環境からの作用もうけるのであり、環境の状態が皮膚にもあらわれます。たとえば湿度がひくければ皮膚はかさかさになり、気温がたかければ汗がでます。

皮膚は、身体の状態をうつしだすだけでなく、環境の状態もうつしだします。皮膚は身体と環境をうつす鏡であるといえるでしょう。身体と環境の両者に心をくばることが大事です。


▼ 参考文献
『ナショナルジオグラフィック 日本語版』(2019年3月号)日経ナショナルジオグラフィック社、2019年