係助詞ハは題目を提示し、格助詞ガノニヲを兼務します。題目をしめし、補足語をのべて述語でむすびます。係助詞と格助詞をつかいわけます。(2019.3.24 更新)
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』(くろしお出版)は日本語の語法についてくわしく解説しています。以下の例文をよんで練習すればわかりやすい日本語が書けるようになります。




第一章 文法用語
第二章 いわゆる主述関係
第三章 基本概念
第四章 活用形のはたらき




例文1

The man gave the boy the money.

この英文を日本語に翻訳すると「オトナガ子供ニ銭ヲアタエタ」となります。しかし「子供ニ、オトナガ銭ヲアタエタ」とも「銭ヲ、オトナガ子供ニアタエタ」ともいえます。語の関係を構造的にあらわすとつぎのようになります。

日英比較

英語では、「the man」が主語であり、それは述語の時制をも支配し、いわゆる主述関係をつくります。

それに対して日本語では、「オトナ」「子供」「銭」は、「与エタ」という述語に対して平等の関係にあり、この文は、「与エタ」という述語をめぐる三者の関係をしめすのであって、「オトナ」だけがとくに重要ないわゆる主語ではありません。

このように英語と日本語では語法(文法)がことなるのですから、英語の文法は日本語にはあてはまりません。

「オトナガ」「子供ニ」「銭ヲ」など、つまり日本語の「Xハ」「Xニ」「Xヲ」などは「補足語」とよばれ、「Xガ」は主格、「Xニ」は方向格あるいは位置格、「Xヲ」は対格であり、日本語には主格はありますが主語はなく、その主格は、ほかの格と平等な補足語のひとつにすぎません。(日本語における「ガ」「ノ」「ニ」「ヲ」は格助詞とよばれます。)

さて日本語には、「Xハ」ではじまる文がおおく、この「ハ」は係助詞とよばれ、「ハ」をつかうと、「Xニツイテ言エバ」という心持ちで題目を提示する(ピックアップする)ことができます(題目は提題ともいいます)。

オトナガ子供ニ銭ヲ与エタ。

この文において、「オトナ」を、オトナニツイテ言エバという心持ちで題目として提示するとつぎのようになります。

オトナハ子供ニ銭ヲ与エタ。

「子供」を、子供ニツイテ言エバという心持ちで題目として提示すると(とりだすと)つぎのようになります。

子供ニハ、オトナガ銭ヲ与エタ。

「銭」を、銭ニツイテ言エバという心持ちで題目として提示すると(とりだすと)つぎのようになります。

銭ハ、オトナガ子供ニ与エタ。

このように、「オトナ」「子供」「銭」のいずれも題目として提示することができ、しかも「ハ」は、「ガ」「ヲ」を兼務します。

たとえば「銭ハ、オトナガ子供ニ与エタ」という文では、「銭ハ」と題目をあらわすとともに、「銭、オトナガ子供ニ与エタ」という事柄(内容)もしめすのであり、「銭ハ」の「ハ」は、題目をしめす本務としての「ハ」とともに、「銭、・・・与エタ」の「ヲ」を兼務します。「銭ハ、オトナガ子供ニ与エタ」といえば、「銭ハ、ソレヲオトナガ子供ニ与エタ」という必要はありません。

「ハ」ひとつで、題目と格の両方をしめせるのであり、「ハ」のなかに格が潜在しているとみてもよいです。





例文2

つぎの事柄についてはどうでしょうか。

象ノ鼻ガ長クアルコト

この事柄のなかの名詞を題目として提示してみます(とりだしてみます)。

象ハ、鼻ガ長イナア。
象ノ鼻ハ、長イナア。
鼻ハ、象ガ長イナア。

「象ハ、鼻ガ長イナア」では、「象ハ」と題目を提示するとともに、「象、鼻ガ長イナア」という内容をしめします。「ハ」は題目をしめすとともに「ノ」を兼務します。「象ノ鼻ハ、長イナア」では、「象ノ鼻ハ」と題目を提示するとともに、「象ノ鼻ガ、長イナア」という内容をしめします。「ハ」は題目をしめすとともに「ガ」を兼務します。「鼻ハ、象ガ長イナア」では、「鼻ハ」と題目を提示するとともに、「象ノ鼻ガ、長イナア」という内容をしめします。 「ハ」は題目をしめすとともにやはり「ガ」を兼務します。





例文3

私ガ彼女ノ結婚ノ仲人ヲシタコト

同様に、つぎのようになります。

私ハ、彼女ノ結婚ノ仲人ヲシタ。
彼女ノ結婚ノ仲人ハ、私ガシタ。
彼女ノ結婚ハ、私ガ仲人ヲシタ。
彼女ハ、私ガ結婚ノ仲人ヲシタ。

いずれも成立します。「Xハ」は提示された(ピックアップされた)題目であり、相手に何をつたえたいかによって題目はちがってきます。





例文4

甲 ガ 乙 ニ 丙 ヲ 紹 介 シ タ コ ト

という事柄において、「甲ガ」「乙ニ」「丙ヲ」のいずれも題目として提示(ピックアップ)することができます。

提 示
甲 ハ
    乙 ニ 丙 ヲ 紹 介 シ タ。
乙ニハ 甲 ガ     丙 ヲ 紹 介 シ タ。
丙 ハ 甲 ガ 乙 ニ     紹 介 シ タ。

これら3つの文のそれぞれの空欄にあった「甲ガ」「乙ニ」「丙ヲ」は題目として提示(ピックアップ)され、「甲ハ」「乙ニハ」「丙ハ」になりました。甲・丙を題目として提示すると「ガ」「ヲ」は「ハ」が兼務します。「ニ」については、この例の「乙ニ」のような方向格では兼務できず、題目は、「乙ニハ」となって格助詞「ニ」がのこり、「ハ」は、本務としての題目だけの役割をはたします。ただし「会場ニ」といった位置格の場合の「ニ」は兼務できます。





例文5

つぎの例をみてみましょう。

ゴールドスミスさんが市立中央体育館をダンス練習場に提案したこと


について、「ゴールドスミスさん」を題目にすると、

ゴールドスミスさんは市立中央体育館をダンス練習場に提案した。


「市立中央体育館」を題目にすると、

市立中央体育館は、ゴールドスミスさんがダンス練習場に提案した。


「ダンス練習場」を題目にすると、

ダンス練習場は、ゴールドスミスさんが市立中央体育館を提案した。






例文6

甲ハ、酒ヲ飲ンダ。
象ハ、鼻ガ長イ。
日本ハ、大学ガ多スギル。
歌ハ、乙ガ歌ッタ。

これらはいずれも題目がしめされている「題述関係」の文です。係助詞「ハ」はどれかの格(ガノニヲ)を兼務しています。

甲ガ酒ヲ飲ンダコト(主格)
象ノ鼻ガ長イコト(連体格)
日本ニ大学ガ多スギルコト(位置格)
乙ガ歌ヲ歌ッタコト(対格)

たとえば「日本ハ、大学ガ多スギル」といった場合は、日本についていえばという心持ちで「日本ハ」として題目を提示するとともに、「日本、大学ガ多スギル」ということものべているのであり、「ハ」は、題目をしめすとともに「ニ」を兼務しています。「日本ハ、大学ガ多スギル」といえば「日本ハ、ソコニ大学ガ多スギル」という必要はありません。あるいは「歌ハ、乙ガ歌ッタ」といった場合は、「歌ハ」として題目を提示するとともに、「乙ガ歌歌ッタ」ということもしめしているのであり、「ハ」は、題目をしめすとともに「ヲ」を兼務しています。「歌ハ、乙ガ歌ッタ」といえば「「歌ハ、乙ガソレヲ歌ッタ」という必要はありません。

題目は主格であることがおおいために「Xハ」を「Xガ」とかんがえてしまう人がいますが、「ガ」にはかぎらず「ノ」「ニ」「ヲ」も「ハ」は兼務できます。





例文7

「構造式」をつかうと語と語の関係が一目でわかります。

私は昨日友だちと神田へ本を買いに行った。

この文を構造式であらわすとつぎのようになります。

190324 構造文

「私ハ」「昨日」「友ダチト」「神田ヘ」「本ヲ — 買イニ」は「行ッタ」(述語)の前ならどこにおくこともできます。

たとえばつぎのようにならべかえることができます。

190324b 構造文

本を買いに友だちと神田へ昨日私は行った。


お百姓が一人くわを二本担いで通りました。

この文を構造式であらわすとつぎのようになります。

190324c 構造文

「オ百姓ガ — 一人」は直列です。「クワヲ — 二本 — 担イデ」も直列です。しかし「オ百姓ガ — 一人」と「クワヲ — 二本 — 担イデ」はどちらを前にもってきてもかまいません。ならべかえるとつぎのようになります。

190324d 構造文

くわを二本担いでお百姓が一人通りました。


このような構造式をみれば、主語-述語という主述関係は日本語においてはまったく用をなさない(日本語には主語はない)ことがわかります。今後、わかりにくい文があったら構造式をつくってみるとよいでしょう。










三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』(くろしお出版)は日本語の語法について、これでもかというくらいくわしく研究し解説しています。日本語をはなしていてあるいは書いていて、「Xハ」をつかえばよいのか「Xガ」をつかえばよいのかよくわからない場合は、三上章著『象は鼻が長い』(くろしお出版)とともに本書をよんで練習するとよいでしょう。

文法用語では、「Xハ」の「ハ」は係助詞、「Xガ」の「ガ」は格助詞として区別されます。「ハ」は題目を提示する役割をになうのに対し、「ガ」は格助詞のなかの主格であり、格助詞のなかまのひとつにすぎません。格助詞にはほかにも、「Xノ」(連体格)、「Xニ」(位置格・方向格)、「Xヲ」(対格)、「Xト」(共格)、「Xカラ」(奪格)などがあります。

「Xハ」と「Xガ」の混同は文法的には、係助詞の「ハ」と格助詞の「ガ」(主格)の混同にほかなりません。「ハ」は、題目を提示する本務と格助詞を兼務する2つの機能をもち、「ガ」(主格)とは次元がことなり、「ハ」のほうが次元がたかいわけです。

「ハ」をつかえば、どんな「補足語」(述語のまえにくる語)でもとりだして題目として提示できます。題目は提題とか主題ということもあります。

このように、いわゆる主語と題目、主格はいずれもちがうものであり、いわゆる主語は日本語にはなく、したがって英語などにみられる主述関係も日本語にはありません。そもそも日本語と英語では語順がことなるのですから英文法は日本語にはあてはまりません。

わたしはかつて、第2外国語としてドイツ語を、第3外国語としてネパール語を勉強しました(第1外国語は英語です)。ドイツ語は英語と語順がおなじでしたが、ネパール語は日本語と語順がおなじでした。したがってネパール語は、わたし(日本人)にとっては英語やドイツ語よりもはるかに習得しやすく、日本語の応用でまなんでいくことができました。なおネパール語は、サンスクリット語を基礎とし、ヒンディー語にかなりちかい言語です。

このような言語体験から、世界中のそれぞれの言語にはそれぞれに文法があり、文法のない言語は存在せず、非論理的な言語もないことがよくわかりました。

20世紀までは、日本語はあいまいで非論理的な言語だと誤解した人々がいましたが、それは、言語体験や勉強がたりなかったり、英文法を日本語に無理にあてはめて失敗したり、その人自身に論理性がそもそもなかったりした結果にほかなりません。

「ハ」をつかって題目を提示し、補足語をのべて述語でむすぶという日本語の語法はたいへんわかりやすく、それほどむずかしいことではありません。この語法と、本多勝一さんがあきらかにした「修飾語の順序と読点の原則」を習得すれば、あなたの日本語能力は一気に向上します。日本語ができれば、おなじ語順の外国語の習得も容易になります。




▼ 参考文献
三上章著『続・現代語法序説 - 主語廃止論 -』くろしお出版、1972年(新装版、1992年)


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▼ 関連書籍
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▼ 注
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