淡水の約86%は氷河として存在しています。氷河は、涵養域と消耗域からなりたっています。地球温暖化の指標として重要です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年4月号の Basics of Science では氷河を解説しています。



山岳氷河は赤道域を含む世界各地にあり、近年、日本列島でも “発見” が相次いでいる。従来は「雪渓」とされていたもので、氷が十分に厚く、かつ流動していることが確認されると、氷河と認定されるのだ。現時点では、富山県と長野県で六つの氷河が認められている。


氷河とは、ながい時間をかけて重力によってゆっくり流動する雪と氷のおおきなかたまりのことです。地球上にある淡水のうちの約86%が氷河として存在しています。

ひろい面積で陸地をおおう氷河を「氷床」もしくは「「大陸氷床」といい、これは、南極大陸とグリーンランドでのみ現在はみることができます。一方、そのほかの氷河は、標高のたかい山岳地帯でみられる「山岳氷河」です。

氷河は、十分に雪がふり、夏になってもとけない地域でつくられます。ふりつもった雪は、そのおもみによって結晶どうしがつながったり、一部がとけてふたたび こおったりすることによって粒径のおおきな「氷河氷」(ひょうがごおり)へかわっていきます。

氷河上流の標高のたかいところではふりつもった雪から氷りがうみだされ、この領域を「涵養域」といいます。一方、標高のひくいところでは氷河がとけたり、先端がわかれて「氷山」となって海にながれでたりしてきえていき、ここは「消耗域」とよばれます。氷河は、このような涵養域と消耗域によってなりたっており、たとえば南極大陸の氷河は、涵養域が消耗域にくらべてとてもひろい特徴をもちます。

氷河のなかには、たくさんの岩石もふくまれており、消耗域のまわりに岩石がつみかさなると丘のような地形がつくられ、これは「モレーン」といわれます。また氷河が流動することで谷がけずられたり、とけた氷が氷河湖をつくったりすることもあります。

氷河のうえでは、菌類や細菌類のほか、光合成をおこなう藻類など、さまざまな生物もみられます。山岳氷河では、これらをたべる昆虫やミミズの仲間がいることもあります。ヒョウガユスリカは世界で最初にみつかった氷河昆虫であり、マイナス16℃でも凍死しません。




山岳氷河の代表例であるヒマラヤ山脈の氷河はおもしろいことに夏に成長します。ヒマラヤ地域では、モンスーン(季節風)の影響で夏(6月〜9月)が雨季であり、この時期に降水量が非常におおく、その降水が、8000メートル級の峰々がつらなるヒマラヤ山脈の高所では雨としてではなく雪としてふるので氷河が夏季に成長するというわけです。

ところが近年の地球温暖化の影響により、いままでは雪としてふっていたところで雨がふるようになってきました。雨がふれば、氷河は成長するどころか縮小していきます。ヒマラヤの氷河はみるみる縮小していき、氷河湖の水量がふえ、氷河湖の決壊もおこり、下流域に水害ももたらしています。

このように氷河は、地球温暖化の影響をもっともうけやすいもののひとつであり、いいかえると、地球温暖化あるいは気候変動の指標としてもっとも重要です。氷河の現象をみることによって、その背後でおこっているもっとおおきな環境変動を想像することが大切です。

これまでは、わたしたち日本人には氷河についてはあまり関心がありませんでしたが、地球温暖化の指標として、また日本でも氷河が発見されて、近年、氷河が注目されるようになりました。



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▼ 参考文献
『Newton』(2019年4月号)ニュートンプレス、2019年