確率により未来が予測できます。しかし予知はできません。運命や努力にも留意しなければなりません。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年4月号では「統計と確率」を特集しています。




統計とは、現実の世界でおきたできごとや現実の世界でくらす人々の行動や特徴などを調査して数値化(データ化)して、数学的に分析して一般的傾向をあきらかにする分野です。国がおこなう調査、新聞社などがおこなう世論調査、テレビの視聴率、アンケートの集計などがあり、最近では、ビッグデータの処理が注目されています。

一方、確率とは、まだおきていない未来のできごとについて、それぞれのできごとがおきる確からしさを数学的に予測する分野です。サイコロやルーレットの目の予測、宝くじなどがあたる確率、降水確率、地震発生確率、合格確率などさまざまです。

統計も確率も、わたしたちの生活と密接にむすびついており、これらの基本を理解することは、「毎月勤労統計」不正(注1)をおこなう役所にだまされないために、あるいはギャンブルで身をほろぼさないために、あるいは支配者や悪人にコントロールされないために必要なことです。

PART 1 は「確率」です。

がおきる確率 = がおきる場合の数/おこりうるすべての場合の数

確率論では、「おきうる事柄」のことを「事象」とよび、ある事象をとすると、がおきる確率をこのように計算します。


販売機に100個のカプセルトイが入っています。豪華な景品と交換できる当たりは1個だけで、残りははずれです。100人が1回ずつひくとき、先に引くほうが得でしょうか、それとも後から引くほうが得でしょうか?

当たりくじをひく確率は何番目だろうが 1/100 でおなじです。これは「くじ引きの原理」とよばれます。


スマートフォンのゲームには、通称「スマホガチャ」とよばれるくじがあります。スマホガチャで、レアなアイテムを引き当てる確率が1%(=1/100)だったとします。カプセルトイと同様に、100回引けば必ずレアなアイテムが当たる、と考えてよいでしょうか?

答えはノーです。100回ガチャをくりかえしても約36.6%の人は当てることはできません。


1個のサイコロを1回振って、1の目が出るほうに賭けて当たったら賞金1万円、1以外の目が出るほうに賭けて当たったら賞金3000円といわれたらどうするでしょう。どちらに賭けるか、少し迷う人もいるのではないでしょうか?

このような場合に指標となるのが「期待値」です。期待値とは、どれだけの賞金が1回の賭けでえられると期待できるかを計算した額であり、「獲得賞金×確率」をすべてのケースで計算し、合計したものです。上記の問題では、1以外の目がでるほうに賭けたほうが期待値はおおきくなります。

サイコロをふると、それぞれの目がでる確率はすべて 1/6 です。しかし最初のうちはかたよりがあり、6回ふればそれぞれの目が1回ずつでるということはきわめてまれですが、何回もくりかえしていくうちに、それぞれの目がでる割合は徐々に 1/6 にちかづいていきます。これは「大数の法則」とよばれます。

世の中のいわゆるギャンブルは胴元がもうかるように基本的にしくまれており、具体的には、ギャンプル参加者がえられる賞金の期待値は、掛け金よりもちいさくなるように設定されています。

参加者がおおくなるほどすなわちギャンブルの回数がふえるほど胴元がはらう金額は「大数の法則」にしたがい、確率計算でもとめられた値にちかづいていき、胴元が損をすることはなくなっていきます。したがって確率論的には、「ギャンブルはやればやるほど損をする」ということになります。


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確率は、未来予測の方法として多用されています。しかし罠もありますので十分に注意してください。

また確率は予測ではありますが予知ではありません。たとえば明日の降水確率が70%と発表された場合、かならず雨がふると予知しているのではなく、あくまでも確率であり、30%の確率で雨はふらないとしめしているのですから、雨はふらないかもしれません。あるいはある地域で、今後30年以内に、マグニチュード8クラスの大地震がおこる可能性が20%だと発表された場合、確率がひくくて大地震はおこらないから安心できるということでは決してなく、20%の確率でおこるとしめしているのであり、今後30年以内に大地震はおこりえます。おこらないと予知しているわけではありません。そもそも予知はできないことを専門家も今ではみとめています。

ところで、そのことが実現する確率がひくかったのにもかかわらず、それが実現したときに「運がよかった」という人がいます。実際、運のよい人が世の中にはいます。運(運命)とは確率論とは無関係であり、確率をこえたものです。しかし運は、未来をきめる重要な何かだとおもっている人がおおいのではないでしょうか。未来は、確率できまるようできまらない、確率をこえたものです。しかし一方で、確率に支配されてしまい、実現の確率がひくいから無理だと最初からあきらめている人もいます。確率が、無意識のうちに常識になってしまっています。

あるいは野球では、ピッチャーがどのような球をつぎになげてくるか? 確率論的に予測ができます。バッターは予測してまちうけます。予測があたればうちかえせる確率がたかまります。しかし一流のバッターでしたら、どのような球がきてもうってしまいます。うてる技術をもっていて、最悪でもファールにします。そのように常日頃から練習をしています。確率だけで未来はきまりません。日々の努力のほうが重要かもしれません。

確率による未来予測は常識の範疇にあります。しかし常識をこえたところにドラマがうまれます。

あるいは入学試験を受験する場合、合格率80%以上の学校を受験するのが一般的でしょう。「とにかく進学したい」。しかし「もしかしたら当日の試験で、自分のよくしっている問題がいくつも出題されるかもしれない。志望校の合格率は50%であるが賭けてみよう。運も実力のうちだ」とかんがえる人もいます。また「1年浪人して勉強し、どんな問題が出題されても解答できるようにしよう。努力こそ大事だ」とおもう人もいます。

このように確率を、運命と努力と対比してみるとその意味がとらえやすくなり、また、とくに選択にせまられたとき、確率をどうつかっていけばよいかもわかってくるのではないでしょうか。



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▼ 参考文献
『Newton』(2019年4月号)ニュートンプレス、2019年

▼ 注1:毎月勤労統計不正
雇用や賃金、労働時間の変動を調べる厚生労働省の毎月勤労統計で、従業員500人以上の事業所は全数調査すべきところ、2004年から東京都分を抽出調査にし、それを公表していなかった問題。17年までは抽出した数値を全数に近づける復元処理を行っておらず、給料が高い東京都の大企業の数が少なくなり、平均賃金などが本来より低くなっていた。これにより、勤労統計の賃金額が給付水準に連動する雇用保険や労災保険などで、延べ約2000万人に対する支払い不足が発生している。(時事ワード解説, 2019.2.27)