認知症予防のために図書館が利用できます。空間情報処理・空間記憶法を実践します。体をうごかすことが大事です。
俊也結城著『認知症予防におすすめ図書館利用術 フレッシュ脳の保ち方』(日外アソシエーツ)は、図書館を利用した認知症予防の方法についてわかりやすく解説しています。

厚生労働省によると、2025年には、認知症の人は700万人に達すると推計され、また認知症予備軍までふくめると1000万人になるとのみかたもあります。誰もが、認知症とは無縁ではいられない時代になり、誰にも、認知症にならないような生活をおくることがもとめられ、そのための方法が模索されています。



第1章 知っておこう!認知症の基礎知識
第2章 やってみよう!図書館で認知症予防
第3章 読んでみよう!五感に響く児童文学
第4章 活動報告 図書館で ‘ライブラリハビリ活動’


認知症は、認知機能が低下し、日常生活に支障をきたしている状態の総称です。


中核症状
  • 記憶障害:日常生活に支障をきたすほどのもの忘れ
  • 判断力低下:物事を決められない、金銭管理が困難
  • 実行機能障害:家事や仕事を段取りよく行えない
  • 見当識障害:時間や場所がわからない
  • 視空間認知障害:物の位置関係を理解するのが困難
  • 失語:麻痺などの運動障害がないのに、目的にあった動作がうまく行えない
  • 失認:視覚や聴覚、触覚などの感覚障害がないのに、対象を把握できない

行動・心理症状
  • 徘徊:家の中や外を一人で歩き回る
  • 暴力行為:攻撃的に暴れたり、心無い言葉を投げかける
  • 妄想:「ものを盗られた」といって周囲の人を犯人扱いするなど
  • 幻覚:壁のシミが人の顔にみえるなど
  • 抑うつ:気分が落ち込む、やる気が出ない、食欲がない、眠れないなど
  • 不潔行為:便をいじって周囲にこすりつけるなど
  • 昼夜逆転:昼寝の時間が多く、夜は動き回る


図書館を利用した認知症予防の具体的な方法はつぎのとおりです。


  • ちょい早歩きで図書館へ
  • ちょっと寄り道・筋力トレーニング
  • 本探しで能力アップ ワーキングメモリを鍛えよう
  • 読書で育脳(イクノウ)
  • 図書館ランチ
  • 読み聞かせ
  • イベントに参加しよう


認知症予防の第一番手は「早歩き」です。やや息がはずむ程度の心拍数であるいてみます。「ややきつい」と感じる程度のスピードです。10分間の早歩きを1日2〜3回おこなうことからはじめてください。早歩きによる有酸素運動は記憶力も向上させます。そしていきつけの図書館をきめて、早歩きでそこまでいくようにします。ときどきルートをかえてみるとよいでしょう。

また最近、認知症予防の方法として、有酸素運動とともに筋力トレーニングが注目をあつめています。筋力トレーニングをおこなうと、感覚神経・運動神経が活発につかわれて、適度な刺激を脳におくりつづけることができ、脳内の神経ネットワークが活発に活動し、認知機能の改善も期待できるというわけです。すわってできる方法、たっておこなう方法、椅子をつかう方法などが本書で紹介されています。

図書館のなかでは、フロア案内図をたよりにして、よみたい本の棚をさがします。そして目的の棚までのルートをあるきながら、そのルートを記憶するようにします。棚についたら、本をさがして、よむ本のタイトルと著者名をおぼえます。図書館という建物(空間)のなかで、その棚の場所を確認し、その棚のなかの位置でその本を記憶します。あとでその本についておもいだすときも、図書館の建物、棚、棚のなかの本というようにイメージ(想起)します。これは、建築記憶法あるいは空間記憶法の実践になります。また棚から本をだしいれする運動によって手指をよくつかえば脳全体の活動量もふえ、認知症予防になります。

高齢期になってからでも読書をする頻度のたかい人はそうでなかい人とくらべて認知力の低下がおさえられるという研究結果があります。読書は、脳をそだてる「脳育」であるといってもよいでしょう。そして読書をしていて気になったところは書きとめてください。書くという行為は情報のアウトプットとして重要であるばかりか、手先をつかいますので手からの信号もおおくなり、これをうけとる脳の領域も発達していきます。

そしてたまには、弁当をもって図書館にいって「図書館ランチ」をたのしみましょう。弁当は買うのではなく、自宅でつくります。料理をすることは、認知症予防のために最適です。

また図書館でイベントがあったら積極的に参加してみます。本について話すチャンスがあったらなおよいでしょう。読み聞かせ活動をおこなうと、思考や判断、アイデアの創造、喜怒哀楽などをつかさどる前頭前野がはたらきます。年をとっても刺激を脳におくりつづけることが大事です。

わたしたちが日常生活をおくるうえでの大切な記憶に「ワーキングメモリ」があります。ワーキングメモリとは、わたしたちが行動をおこすときに必要な記憶を一次的に保存し、必要なときにひきだすような記憶のことをいいます。たとえるなら、作業をおこなう段取りを脳内にある「メモ帳」に一次的に書いておくようなイメージであり、コンピューターでいうならばランダムアクセスメモリ(RAM(ラム):Random Access Memory)に相当します。ワーキングメモリは、認知症の前段階(軽度認知障害)になるとおとろえが生じ、日常生活のおおくの場面で不都合をおこすことがしられています。しかし図書館を積極的につかうことにより、このワーキングメモリをきたえることができます。




このように、図書館をつかった認知症予防はたいへん効果的です。図書館で本をよめば、図書館という空間のなかで記憶ができます。

人間主体の情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からみると、みたりきいたりすることは、環境(外界)から内面への情報のインプットであり、記憶とは、「記銘→保持→想起」からなり、情報のプロセシングに相当します。そして はなしたり書いたり手をつかったりすることはアウトプットです(図1)。

190220 記憶法
図1 記憶法のモデル 


情報を記銘するときには、その本をイメージし、その本がおいてあった棚をイメージし、図書館のフロアーをイメージし、図書館のなかのどこにその棚があったのかを確認します。本を想起するときには、図書館をイメージし、フロアーをイメージし、棚をイメージし、本をイメージし、本のなかのページをイメージします。イメージ(画像)それも3Dイメージをつかうのがポイントです。そしてアウトプットするときには言語をつかいます。

あるきながら、あたらしい知識を獲得していくということは、建物の空間のなかの特定の場所に、あたらしい知識を定着させていくことであり、これは空間記憶法、空間情報処理の実践といってもよいでしょう。

このようなことは高齢になってからおこなってもよいですが、できれば、子供のころからやっておいたほうがよいです。



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記憶の仕組みとアルツハイマー病 -「アルツハイマー病 研究最前線」(Newton 2017.3号)-

▼ 参考文献