生物多様性が地球の生態系をささえ、人間の生存もささえています。絶滅危惧種とともに生態系も保全しなければなりません。自然史系博物館のなかをあるけば時間的思考が身につきます。
国立科学博物館・地球館1階「地球の多様な生き物たち」第6展示室では「生物多様性の保全」について展示・解説しています。

国立科学博物館のなかをあるいてみれば、おどろくべき多様性が生物の世界にはあることがすぐにわかります。

多様な生物は食物連鎖網をつくり、巨大な生態系を構築、その頂点にいるのが人間であり、生物多様性にささえられて人間の生活がなりたっています。

生物多様性は、地球上のあらゆる場所で息づいています。たとえば身近にみられるサクラの木1本にも、おもいのほかおおくの生物たちが複雑なかかわりあいをもちながら生活しています。身近なところから観察をはじめてみましょう。

あるいは日本の絶滅危惧種の代表としてしられるトキをみると、トキをささえるさまざまな生物が背後にいることがわかります。よくしられている「くう、くわれる」という関係のほか、栄養をあたえあったり、遺体を分解したり、生物同士の関係はさまざまです。そこには、トキをめぐる「共生ネットワーク」があるのであり、このネットワークは里山から森林へとつながっています。生物や環境の保全活動をおこなう場合には、このようなネットワークを構成する生物の多様性を理解する必要があります。

しかし現在、人間による環境破壊がいちじるしく、絶滅を危惧される生物が急増しています。環境省は、日本の国土における絶滅の危険度をまとめた「レッドリスト」を公表しており、これは、野生生物を保全するうえでもっとも重要な絶滅危険度をカテゴリーわけしたものです。また「レッドデータブック」を発行しており、この本には、生態・分布・生息域などの詳細な情報ものっています。これらは、国際自然保護連合(IUCN)が作成する地球規模のものや地方自治体や学術団体などが作成したものなどもあります。

これらの絶滅危惧種のなかには、保全活動により個体数が回復し、絶滅の危機を脱しつつある種もいます。

たとえばコシガヤホシクサは、1994年、唯一の自生地(茨城県下妻市砂沼)で水管理方法がかわったために消滅し、その後は、植物園などでのみ保存されていた野生絶滅種でした。そこで国立科学博物館・筑波実験植物園によるコシガヤホシクサ野生復帰のための保全プロジェクトが実施され、2009年には、自生地での開花と結実が16年ぶりに確認されました。その後も、自律した野生集団の形成をめざして保全活動がつづけられています。

またアホウドリは、19世紀末から20世紀前半にかけて、小笠原諸島などの繁殖地で羽毛採取のために乱獲され、数百万羽が捕殺、1949年には絶滅したとおもわれました。しかしさいわいにも1951年に、10羽ほどが鳥島で再発見され、その後、保護対策がおこなわれ、現在では、数千羽にまで回復しています。

このように、生物多様性の保全は、個体数減少の原因を調査してそれをとりのぞくことで絶滅危惧種とともに生態系を保全していかなければなりません。






生物多様性を保全することは地球の生態系を保全することであり、生態系に人間も依存して生きている以上、生態系を保全することは人間の生存にとっても必要なことです。

生物多様性に関しては、近年、教育の効果もあってか、おおくの人々が認識をふかめつつあります。地球環境は危機的状況にある、人間の生存もあやぶまれる、このままではいけないとかんがえる人々がふえてきました。

ところが実際には、そうはいっても、「おれが生きているあいだは何とかなるだろう」とおもっている人がおおいのです。これがいけません。

「おれが生きているあいだは」。人間界は、どこへいっても競争、競争、自分が生きていくだけで精一杯なのに、ほかのことまではかんがえてはいられない・・・

しかし子や孫・子孫のこともかんがえてみてください。子や孫・子孫のことも心配してください。ながい時間の流れのなかで物事はかんがえなければなりません。時間的思考がいります。

生物多様性や環境の保全も、ながい時間の流れのなかでおこなっていかなければ意味がありません。「おれ」が生きているあいだだけの課題ではありません。

そこで国立科学博物館などの自然史系博物館のなかをゆっくりとあるいてみれば、何万年、何百万年、何億年といった長大な時間スケールでかんがえる時間的思考がおのずと身につきます。このような体験によって人間の自我執着心もよわまっていくのではないでしょうか。



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