ゲノム編集ベビーが誕生したという報道があります。人類はあらたな段階にはいりました。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』2019年2月号の FOCUS では「ゲノム編集ベビー」に関するニュースを紹介しています。


2018年11月、「ゲノム編集」という手法で遺伝子を人為的に変えた双子が誕生したというニュースが、世界中を駆けめぐった。中国、南方科技大学の賀建奎(がけんけい)准教授は、ゲノム編集によって、エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス:HIV)の感染に関わる遺伝子に “傷” をつけ、HIV に感染しにくい子供が生まれたと主張している。


これがもし事実なら、とうとう人類は「一線」をこえてしまったことになります。

ゲノム編集とは、生物の設計図ともいえる DNA を簡単かつ高い制度でかきかえる技術です。ゲノム編集を受精卵にほどこし、病気の原因となる遺伝子を改変すれば、親から遺伝するような病気を予防できるとかんがえられています。

しかしこれには、おおきな問題があり、たとえばねらった場所以外に変異をもたらす「オフターゲット効果」がおきる可能性があります。生じた DNA の変異は、子供や子孫に脈々とひきつがれていくことになり、あとから、人類に対するする重大な悪影響があることがわかってもとりかえしのつかないことになります。リスクがおおきすぎるということです。

受精卵のゲノム編集は人類の進化にかかわる重大なことであり、これをおこなうことは「生物学的な革命」をおこすことになります。この革命がおこったのちには、貧富の格差ならぬ生物学的格差が人間のあいだに発生することにもなります。

したがって科学者・技術者の個人的な興味や患者の要望だけでこのようなことはおこなってはならず、国際的なとりきめが必要です。


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▼ 参考文献
『Newton』2019年2月号、ニュートンプレス、2019年