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古地図をとおして、世界(地球)に関する認識が拡大・精密化してきた歴史をみることができます。地図は、各地の情報をたくわえるデータベースとしての機能ももちます。地図をつかえば、空間をつかった情報処理ができます。(2018.11.27 更新)
伊能忠敬没後200年&歌川広重没後160年・企画展「大♡地図展 - 古地図と浮世絵 -」が東洋文庫ミュージアムで開催されています(注1)。世界および日本の古地図をみられる貴重な機会です。風景や名所をえがいた浮世絵や絵本とともにみることによって当時の旅の様子を想像することもできます。


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行基図
(13世紀(鎌倉時代)成立、1596-1615年刊)
江戸時代にいたるまで日本地図の基本形とされていたのが「行基図」(行基型日本図)です。奈良時代の僧 行基(668-749)がこのタイプの地図を最初にえがいたとされますが事実はわかりません。山城国(平安京)を中心にして諸国がつらなって日本列島の輪郭をつくっています。世界地図に日本をえがく際にも参照されました。



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海東諸国紀
(李氏朝鮮の外交参考書、1471年成立)
日本と琉球の外交をすすめていくために李氏朝鮮が編集した日本と琉球に関する報告書です。付図が、「日本国之図」をふくめて7枚あり、海上航路が、波模様のあいだに白抜きでしめされています。北海道を島としてえがいた最古の地図とされています。 



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アジア新図
(アブラハム=オルテリウス、1570年、アントワープ刊)
ベルギーの地図作家・地理学者のオルテリウスが作製した『世界の舞台』におさめられているアジア地図です。世界初の近代的な地図帳であり、当時の最新情報を収集・整理してつくられました。1582年(天正10)に、天正遣欧使節団がヨーロッパで本書を入手して日本にもちかえったとされます。
 


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日本島図
(ルイス=ティセラ、1895年、マドリッド刊)
西洋の市販地図にえがかれた日本列島であり、単独の日本図としてはもっともふるいものです。イエズス会の宣教師が日本からもちかえった「行基図」を参照してえがかれたとかんがえられます。 



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大地図帳
(1664年、アムステルダム刊)
17世紀のオランダは、経済・文化の両面でヨーロッパ随一の繁栄の時代をむかえ、オランダ東インド会社の本社(アムステルダム)には世界中の情報があつまりました。本書は、世界各地の地理情報を編集して作製された豪華な地図帳であり、オランダ語以外に、ラテン語・フランス語・ドイツ語などの複数の言語版がつくられ、各国で重宝されました。写真は、オランダ語版全9巻の最終巻で、アジア各国の地図30枚を収録しています。



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地球一覧図
(三橋釣客(みはしちょうきゃく)、1783年頃)
球形の地球を平面であらわした世界地図です。宣教師マテオ=リッチ(1560-1610)が、西洋の地図を漢訳した『坤輿万国全図』(こんよばんこくぜんず)の内容にもとづいています。ただし蝦夷を島としたり、インドを大きくえがくなど、いくつかの改定がくわえられています。中国沿岸部やインド洋沿岸諸国をくわしく記し、日本から主要地域までの海上距離も記されています。 



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シーボルト NIPPON
(シーボルト、1852年、ライデン)
オランダ商館医として長崎に滞在したドイツ人医師シーボルト(1796-1866)による日本研究書に収録された地図です。世界に最初に紹介されたほぼ完璧な日本地図がしめされています。シーボルトは、江戸幕府天文方の高橋景保から日本地図の縮図を極秘に入手しました。高橋景保は、伊能忠敬の日本全国測量を監督する立場にあり、『大日本沿岸輿地全図(伊能図)』を伊能忠敬の没後に完成させました。シーボルトが手にいれた日本地図は「シーボルト事件」の発端になりました。 



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シーボルト NIPPON
(シーボルト、1852年、ライデン)
シーボルトの日本研究書には、日本全図だけでなく日本各地の詳細な地図も収録されています。



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大日本国正統図
(石川流宣、1702年刊)
浮世絵師の石川流宣がえがいた日本地図です。地図としては不正確ですが、絵画的な表現と色彩のはなやかさ、日本各地の豊富な情報の記載がおおきな特徴です。改訂・改題をくりかえしながら約1世紀にわたって出版され、日本地図の主流としてうけいれられていました。 



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大日本沿海輿地全国
(伊能図・カナ書き特別小図、書写年代 1820年代?)  
1821(文政4)年に、全国の実測と経緯度の測定にもとづいた、日本初の科学的な地図『大日本沿海輿地全国』(伊能図)が完成しました。

地図作製の中心となったのは伊能忠敬でした。伊能は、下総国佐原の豪商の入り婿として家業に精をだしましたが、隠居後、天文学と暦学を習得すべく江戸へでて、幕府天文方の高橋至時に弟子入りしました。50歳のときでした。高橋と伊能は、日食・月食の予測のために地球の大きさをしる必要があり、そのためには緯度一分の正確な長さを算出しなければならず、蝦夷地への測量をおこないました。こうして全国測量がはじまり、1800年〜1815年にかけてのべ10回の測量を実施、伊能は、第9次の伊豆諸島測量をのぞくほぼすべての測量に参加、あるいた総距離は約4万キロ(地球一周に相当)に達しました。測量をおえて地図の作製にとりかかりましたが、次第に体長をくずし、1818年に伊能はなくなりました。しかし弟子たちが志をつぎ、日本地図を完成させました。

伊能図は非常に正確な日本地図であり、日本の近代化におおきく貢献することになりました。日本の地図史上の偉業として今日につたえられています。



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房総海陸勝景奇覧
(葛飾北斎、1818-1819年)
内房〜江戸〜鎌倉方面をえがいた鳥瞰図です。画面右端にみえるのは房総半島、左手前は三浦半島です。さまざまな情報を地図上にかきこみ、また臨場感のある描写になっています。1810年、葛飾北斎(47歳)は木更津を旅し、このときの旅の体験もいかされているとおもわれます。



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改選 江戸大絵図
(遠近道印 板屋弥兵衛版、1701年)
明暦の大火(1657年)後に作製された縮尺・方位とも正確な江戸地図です。



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江戸切絵図
(1849-1862年刊)
携帯用につくられた折りたたみ式の地図で、「切絵図」とよばれます。町あるきの必須アイテムとして重宝されました。 


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世界地図の作製過程はまさに、世界(地球)の地理的認識の拡大と精密化の過程でした。人間は、どのように世界を認識してきたのか、地図の歴史がかたっています。

一方、日本に目を転じてみると伊能忠敬の偉業がひかります。ここに、測量技術の革新があり、また日本の近代化のための基礎がきずかれました。

地図は、いったんつくられると移動のために誰もが利用できるようになります。そのためには方位や距離・面積が正確にしめされていたほうがよいです。さらに移動経路あるいは移動先に関する情報も地図上に記載されているととても便利です。こうしてさまざまな「ガイド地図」や「切絵図」がつくられるようになりました。地図は、各地の情報のデータベースとしても機能するようになりました。地図から地誌へといってもよいでしょう。

各地のさまざまな情報は地図上で整理することができ、また地図上で、視覚的・空間的に記憶することもできます。地図は、情報をたくわえるデータベースであり、また地図をみて情報をひっぱりだす(あるいは想起する)ためのインデックスとしてもはたらきます。 

江戸時代は平和がつづいたので地図を参考にしてあちこちにでかけることができました。このことは現代にも似ていて、第2次世界大戦後は日本では平和がつづいているので観光旅行に誰もがでかけけることができます。そのときの必須アイテムに地図はなっています。

しかし今日の人々は紙の地図はほとんどつかわずスマートフォンをつかいます。2005年、Google マップが登場、これは、地図の再発明といえる非常におおきな技術革新でした。従来とは比較にならないほどの情報がそこにはおりこまれ、膨大な情報のなかから必要な情報を検索することができます。わたしたちは地理情報あるいは空間情報をつかいこなすというあたらしい時代に突入しました。

計画をたてたり、各地をあるいたり、みたりきいたり、情報を入手したり、記憶したりするためにマップは必要不可欠です。わたしたちはこのときに空間をつかっています。空間をつかった情報処理のツールとしてますますマップは重要になってきました。


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▼ 注1
伊能忠敬没後200年&歌川広重没後160年・企画展「大♡地図展 - 古地図と浮世絵 -」
会場:東洋文庫ミュージアム
会期:2018年9月15日(土)〜2019年1月14日(月・祝)



▼ 参考文献
公益財団法人編集・発行『大♡地図展 古地図と浮世絵』(ガイドブック)2018年9月13日

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