アップル iPad Pro がフルモデルチェンジとなりました。USB-C ポートが採用されました。ビジョンをえがくことが大事です。
アップルは、米ニューヨークで開催したスペシャルイベント(日本時間 10月30日23時)で新型「iPad Pro」を発表しました。

従来の Lightning ポートが廃止され、USB-C ポートがあらたに搭載されました。これにより、デジタルカメラと直接つないで iPad で写真を表示したり、外部ディスプレイに最大 5K 画質までの映像を iPad から出力したり、iPhone と接続して充電したりできるようになりました。

パソコンやタブレットなど、デバイスのポートにはいろいろな種類がこれまではありましたが USB-C ポートにほぼ統一されつつあります。あとは iPhone の Lightning ポートが USB-C ポートに今後かわるのか、あるいはワイヤレス充電技術が確立すれば iPhone からはポートはなくなるかもしれません。

新型 iPad のそのほかの特徴はつぎのとおりです。

  • 液晶画面は、最新の Liquid Retina を採用した11インチサイズと12.9インチサイズの2モデルです。
  • ベゼル幅(縁)がせまくなり、11インチモデルの本体サイズは旧10.5インチモデルとおなじサイズに、12.9インチモデルは旧モデルと比べてちいさくなっています。
  • 従来より15%うすくなり、軽量化しました。
  • iPhone X などとおなじように顔認証「Face ID」を搭載し、ホームボタンは廃止されました。
  • プロセッサは Neural Engine を搭載した A12X Bionic となり、旧モデルと比較してシングルコア性能で30%、マルチコア性能で90%向上しました。いま販売されているすべてのノートパソコンと比較して92%高速にうごくとのことです。
  • 写真はスマート HDR に対応しました。
  • 4K 画質60fpsでの動画撮影ができます。
  • ウーファーとツィーターをくみあわせた4つの最新スピーカーを搭載しています。
  • このほか、本体と磁石でくっつき、ペアリングや充電ができる第2世代「Apple Pencil」や、キーボードつきカバーとなる「Smart Keyboard Folio」も発表されました。




パソコンのポートはかつては、キーボードとマウス用の ADB、ストレージ用の SCSI、プリンタ用の RS-422 など、さまざまな種類がありました。

しかし1998年発売の iMac ですべてが USB にきりかわりました。このとき、フロッピーディスクをいれるスロットもなくなりました。スティーブ=ジョブズがもたらした iMac の衝撃はいまでもわすれられません。

その後、ポートは、FireWire や Thunderbolt といった技術革新をへて、現在は、Wi-Fi や Bluetooth といったワイヤレス接続が標準になり、3.5mm オーディオジャック(イヤホンジャック)も廃止、有線は、USB-C(Thunderbolt 3 の機能をもつ)に統合されたというわけです。

アップルは技術革新をつねにおこない、ふるいものと決別してきました。新製品がでるたびにユーザーは、それまでつかっていたケーブルや周辺機器がつかえなくなり、アダプターを買ったり、あたらしいデバイスに買いかえたり、苦労してきました。身のまわりにアダプターがあふれたり、サードパーティー製のものだとエラーがおこったりして大変でした。

しかしこれまでの経緯は、ビジョンがまず先にあって、それを実現する過程であったことがわかります。アップルはビジョンをえがき、予告をしつつ、ユーザーをひっぱってきました。たとえば USB-C ポートしかない「新しい MacBook」(2015年3月発売)は今日の予告でした。結果的にみると、あたらしいシステムに はやめはやめに対応していくことが重要だったことがわかります。

スティーブ=ジョブズと彼の後継者たちは、未来を想定して、新商品を現在に投入してきます。しかし新商品でもしだいに過去のものになっていきます。現在とは、未来を実現する場であり、過去とは現在がふるくなったものです。ここには、「未来→現在→過去」というながれがあり、未来は現在にながれこみ、現在はつぎつぎに過去をつくっていきます。これは、物理的な時間というよりも心の姿勢の問題です。

A. 未来→現在→過去


しかし一方で、過去の延長線上に現在をそして未来をきずこうとする人もいます。過去の実績を強調して「だから今日があるんだよ」なんてのべる大人がいます。この人には、「過去→現在→未来」というながれがあります。

B. 過去→現在→未来


たとえばソニーは、フィリップスと共同で CD を開発・販売し、CD は、それまでのレコード(LP)にかわり爆発的に普及しました。そしてブルーレイディスクをその延長線上で開発しました。ここには、「レコード→ CD→ブルーレイディスク」というディスク(円盤)開発の歴史があり、これは「過去→現在→未来」というながれです。

ソニーが、円盤という過去の延長線上でブルーレイディスクの研究・開発をしているあいだに、アップルは、iMac や iPod、iTunes の実用化をしてしまいました。iPod は iPhone の予告でした。iPod が iPhone に発展したのではなく、iPhone のビジョンが先にありました。アップルがブルーレイを完全に無視していることからも両者のすすみ方のちがいはあきらかです。

上記のAの生き方は創造的な生き方、Bの生き方は常識的な生き方といってもよいでしょう。高度情報化がすすむ今日の歴史的転換期においてはどうしてもAが必要になります。「イノベーションのジレンマ」といった問題もこのような文脈から理解することができます。




10月30日のイベントでは、あたらしい MacBook Air と Mac mini も発表されました。

MacBook Air は Retina ディスプレイをついに採用、IPSテクノロジー搭載13.3インチ(対角)LEDバックライトディスプレイ、2560×1600ピクセル、227ppi、CPUは「Intel Core i5-8210Y」、筐体は、あたらしい 100%再生アルミニウムを使用しています。MacBook Pro とくらべてもそれほど遜色はなくなりお買い得なのではないでしょうか。

Mac mini は、4年ぶりのモデルチェンジであり、筐体の色がスペースグレイになりました。以前のハードディスクドライブは PCIe ベース SSD が基板直づけ仕様となっています。こちらもグレードアップしました。デスクワークをしている人には一体型の iMac という選択もありますが、くみあわせをたのしめ、融通のきく Mac mini もいいのではないでしょうか。


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