IMG_7753_2
ニッポニテス・ミラビリス
(交差法で立体視ができます)
異常巻きアンモナイト「ニッポニテス」は環境に適応して進化しました。奇形や病気ではありません。
ニッポニテス展(ミニ展示)が国立科学博物館で開催されています(注1)。ステレオ写真はいずれも交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 -

ニッポニテス・ミラビリスとは、およそ9200万年前(中生代白亜紀)に生息していた異常巻きアンモナイトの一種であり、ニッポニテスは属名、ミラビリスは種名で、「日本から産出した、奇妙な形をした」の意味です。東京帝国大学の大学院生(地質学)であった矢部長克(やべひさかつ)が、北海道北西部のオビラシベ川流域(小平町)で採集した化石標本を研究し、1904年に命名しました。

当初は、奇形ではないかとうたがわれましたが、矢部は、巻き方の規則性を指摘し、22年後に、同様の巻き方をしめす化石があらたに発見されて種として一般にみとめられました。


IMG_7733_2
アンモナイトの断面

アンモナイトとは、およそ4億年前(古生代デボン紀)に出現して6600年前(中生代白亜紀)に絶滅した、分類学的にはイカやタコにちかい頭足類(とうそくるい)の仲間です。殻の内部は、仕切りによっておおくの小部屋にわかれ、小部屋にはガスが充満しており、浮き袋の役割をはたし、海中にうかぶことができたとかんがえられます。また呼吸のためにすいこんだ海水を噴射して海の中をおよぐことができました。アンモナイトの軟体部は、半巻き〜1巻ほどある最後の部屋だけにはいっていました。

多くのアンモナイトは平面上に巻き、「正常巻きアンモナイト」とよばれますが、巻きがほどけたり伸びたり、さまざまな巻き方をするものは「異常巻きアンモナイト」とよばれます。異常巻きアンモナイトは奇形や病的なものではなく、北海道その他で多数みつかっています。


IMG_7772
 

ニッポニテスの形は一見すると奇妙にみえますが、その巻き方は、左らせん巻き、平面巻き、右らせん巻きの3通りの巻き方を交互にきりかえながら巻いています。

ニッポニテスは3通りの成長プログラムをもち、水平面に対して姿勢が上をむきすぎたときには、右または左らせん巻きをもちいて下向きに、逆に、下をむきすぎたときには平面巻きにもどして姿勢を上向きにするという仮説がたてられ、この仮説のもとで、コンピューターで形をシミュレーションしたら、ニッポニテスの形をみごとに再現できました。


IMG_7793_2
ニッポニテスの進化(1)

IMG_7793_2のコピー
ニッポニテスの進化(2)

ニッポニテスが産出する同時代の地層からは、ニッポニテスの類縁のアンモナイトの一種であるユーボストリコセラスの化石も産出します。ユーボストリコセラスは単純な、右らせん巻きあるいは左らせん巻きをしています。形態学的な研究から、このユーボストリコセラスがニッポニテスに進化したのではないかという仮説がたてられています。

以前は、異常巻のアンモナイトは奇形や病気であり、アンモナイトは最後にくるって死んでいったとかんがえた人がいましたがそれはまちがいであり、現在は、環境の変化に適応して進化したとかんがえられています。

何事も、見かけや常識だけで判断するのはよくありません。データをあつめ、仮説をたて、検証していくことが情報処理のエラーをおこさないために大事です。



IMG_7774_3
ニッポニテス・ミラビリス
(約9200万円前、北海道中川町で採集)




1904年10月15日、地質学・古生物学者の矢部長克が「ニッポニテス・ミラビリス」を新属新種として論文発表したことを記念して、日本古生物学会は、10月15日を「化石の日」と制定しました。ニッポニテス・ミラビリスは日本古生物学会のシンボルマークにもなっています。

これにちなんでこのたび、国立科学博物館でニッポニテス展が開催されています。

矢部長克は1911年に、東北帝国大学教授に就任し、その後、地質学科を同大学に創設、地質学・古生物学の幅広い分野で活躍し、1918年には「糸魚川静岡構造線」を提唱、古生物学に関しては、アンモナイトや有孔虫・サンゴなどの数多くの種類の化石を研究し、1935年には日本古生物学会・初代会長に就任、それらの実績がみとめられ、1953年には文化勲章を受章しました。
 

▼ 関連記事
断片をから進化を想像する -「あなたが化石になる方法」(Newton 2017.6号)-
1. 予習 → 2. 見学 → 3. 復習 - 地質標本館 -
時間的な見方と空間的な見方 - 自然史と自然誌(大阪市立自然史博物館)-

▼ 注1
科博NEWS展示 化石の日記念「ニッポニテス展」(ミニ展示)
会場:国立科学博物館(地球館1階オープンスペース)
会期:2018年10月10日〜11月11日