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シンボルモニュメント「知と創造の連鎖」
(平行法で立体視ができます)
17世紀に科学革命がおこりました。社会へ影響し、常識や宇宙観も変革しました。〈記載・分類 → 分析 → 総合〉という方法論の進歩もわかります。(2018.9.28 更新)
[世界を変えた書物]展(上野の森美術館)は科学史を理解するためのよい機会でした(注1)。歴史的な書物をとおして科学の発展ふりかえることにより、一般の人々への影響、社会的なインパクト、世の中の常識や宇宙観の変革についても理解できました。

ステレオ写真はいずれも平行法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 - 



古代
  • アリストテレス(384-322 B.C.)『ギリシャ語による著作集』, ヴェネツィア, 1495-1498年(初版)
  • エウクレイデス(=ユークリッド)(約330-235 B.C.), 『原論(幾何学原本)』ヴェネツィア, 1482年(初版)


天文学・物理学
  • ニコラス=コペルニクス(1473-1543)『天球の回転について』, ニュールンベルク, 1543年(初版)
  • ガリレオ=ガリレイ(1564-1642)『プトレマイオス及びコペルニクスの世界二大体系についての対話』, フィレンツェ, 1632年(初版)
  • アイザック=ニュートン(1642-1727)『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』, ロンドン, 1687年(初版)
  • アルベルト=アインシュタイン(1879-1955)『特殊相対性理論及び一般相対性理論』, ブラウンシュヴァイク, 1917年(初版)


化学
  • ロバート=ボイル(1627-1691)『懐疑的化学者』, ロンドン, 1661年(初版)
  • アントワヌ=ラヴォアジェ(1743-1794)『化学要論』, パリ, 1789年(初版)


生物学
  • チャールズ=ダーウィン(1809-1882)『種の起源』, ロンドン, 1859年,(初版)
  • グレゴール=ヨハン=メンデル(1822-1884)『植物 ー 雑種についての研究』, ブリュン, 1866年(初版)




自然の研究は古代よりはじまっており、それは、「ナチュラルヒストリー」(natural history, 自然誌, 自然史, 博物学, 注2)とよばれるものでした。

しかし17世紀になると「サイエンス」(science, 科学)が急速に発達しました。「科学革命」です。

サイエンスは、観察・実験によってえられた事実(データ)にもとづいて考察をすすめ、仮説をたて、観察・実験によって検証するという方法をもちいます。データは、だれもが確認できるものでなければならず、つまり再現可能性が必要です。こうして、主観的ではない客観的な学問分野がうまれました。

科学史的にみると、記載・分類をおもにしていたナチュラルヒストリー(博物学)的な段階から、分析的研究の段階へ進歩したといえます。

この分析という方法が、人文・社会学あるいは社会全体にも大きな影響をおよぼしていきます。こうして、宗教や政治から独立して研究をすすめる道が徐々にひらかれていきました。

そして今日はどうか。分析のいきすぎ、研究のたこつぼ化に対する反動から、総合という方法が重視されつつあります。生態学・生命科学・地球科学・環境科学などとよばれる分野がでてきました。また総合的な観点から、ナチュラルヒストリーがあらためて体系化され、博物館がうまれかわわりました。

方法論から科学史をふりかえるとつぎの3つの発展段階をよみとることができます。


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図1 研究方法の発展




[世界を変えた書物]展をみると、それぞれの書物が科学的にだけでなく、社会的・歴史的にもおおきな影響をもたらしたことがよくわかります。まさに「世界を変えた書物」の数々です。

専門家が、研究成果を学会で発表したり、学会誌に論文を投稿しているだけですと、一般の人々には研究内容がつたわりません。しかし研究結果を体系化してわかりやすく表現し、書物にして出版すれば(社会へむけてアウトプットすれば)、専門家だけでなく一般の人々にもあらたな知見を提供することができます。

このような観点からみると、歴史的な書物を書いた学者たちは、観察力・思考力だけでなく表現力もすぐれていました。インプット能力・プロセシング能力にくわえてアウトプット能力もかねそなえていました。能力のバランスがよかったといます。すぐれた素質やアイデアをもっていてもアウトプット能力がよわいと、科学的にはすぐれていても社会ではみとめられません。実際、そのような学者は過去に何人もいました。

またアウトプットの方法としての書物は、15世紀に印刷技術が発明されたことにより実現しました。印刷革命から科学革命、社会への影響はすべて連動していました。こうしてヨーロッパ文明が成長していきました。

今回の展覧会で展示された書物には、現在のすすんだ科学からみるとまちがった記述が多々みられたり、まちがった方向に人々をみちびく記述があったりもしますが、科学の枠組みをこえて、このような社会や歴史のおおきな枠組みのなかでこれらをとらえなおしてみると、たしかに、世界を変えた重要な書物であったことがわかります。またこのような思考をすすめることによって現代の文明についても理解がふかまるとおもいます。


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「知の壁」



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▼ 参考サイト
世界を変えた書物「工学の曙文庫」所蔵110選(金沢工業大学)

▼ 注1
[世界を変えた書物]展
 特設サイト
 会場:上野の森美術館
 会期:2018年9月8日〜 9月24日

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▼ 注2
history と story は語源がおなじであり、もとひとつの語が分化したものです。原意は「出来事のつながり、物語」であり、history は「時間の経過にともなって発生した過去の出来事」のみならず、「時間にとらわれない現象の記述」も意味します。

▼ 追記
本展では、地質学・地球科学の書物が紹介されていませんでした。この分野では、C.ライエルと A.ヴェーゲナーの著作が重要です。次回の展覧会では展示を是非おねがいしたいとおもいます。

チャールズ=ライエル『地質学原理』全3巻(The Principles of Geology, 1830-1833)
ライエル(1797‐1875)はスコットランドで生まれ、オックスフォード大学で法律学をまなびましたが、しだいに地質学に関心をもつようになり、1827年以降は地質学の研究に専念しました。海の生物の化石が山の上から産出するのは、聖書に書かれている「ノアの箱舟」(の洪水)のような天変地異のためであるという当時の常識を否定し、地球上では、現在とおなじ自然の作用が過去にもはたらいていたという仮説(斉一説)を主張、「現在は過去を解く鍵である」とのべました。ヨーロッパ各地の調査旅行・研究結果を体系化して『地質学原理』を発表、近代地質学の成立に貢献しました。本書は、ダーウィンの進化論の形成にもおおきな影響をあたえました。

アルフレート=ロータル=ヴェーゲナー『大陸と海洋の起源』(Die Entstehung der Kontinente und Ozeane, 1915)
ヴェーゲナー(1880‐1930)はベルリンで生まれ、ハイデルベルク大学、ベルリン大学などで天文学と気象学をまなび、ハンブルク大学教授、グラーツ大学教授などを歴任しました。イギリスを中心にした世界地図をみていて、アメリカ大陸とヨーロッパ・アフリカ大陸の海岸線の形状がよく似ていることに気がつき、パズルあわせのように両岸の大陸がくみあわさることから、大陸が分裂して移動したのではないかという仮説をおもいつき、1912年に「大陸移動説」を発表、1915年に本書(初版)を出版しました。彼は、地質学・古生物学・古気候学などの多数のデータから、ひとつの超大陸が分裂・移動して現在のような形状・配置になったと説明しましたが、当時の地質学者たちはこれをうけいれず、この説はわすれさられました。しかし1950年代になると、地球物理学などのあらなたデータにより大陸移動説が復活、その後、海底の拡大と沈み込み、海嶺・海溝・山脈の形成、地震、火山噴火などを大陸移動とともに統一的に説明するモデル「プレートテクトニクス」が提唱され、あたらしい地球科学の成立にヴェーゲナーの研究が貢献することになりました。ヴェーゲナーは、「地球科学の全分野から提供された情報を総合することによってはじめて、われわれは真実を見出すことができる」とのべています。総合的な科学の先駆者でした。