さまざまな角度から撮影した土偶の写真をみることができます。縄文人たちの再生のいのりが感じられてきます。
譽田亜紀子著『土偶界へようこそ - 縄文の美の宇宙 -』(山川出版社)は、縄文の土偶 70 体を詳細な写真で紹介しています。

本書の最大の特徴は、前面はもとより後ろ・横・上、さまざまな角度から撮影した土偶の写真を掲載していることです。X線画像も一部にはあります。これらにより多角的・立体的に土偶をとらえることができます。



01 トルソーのような土偶:滋賀県東近江市 相谷熊原遺跡
02 玉ねぎ模様の板状土偶:岩手県岩手郡雫石町 塩ヶ森Ⅰ遺跡
03 小さな脚のある土偶:山梨県甲州市 大木戸遺跡
04 縄文のビーナス:長野県茅野市 棚畑遺跡
05 掌にのる土偶:長野県茅野市 棚畑遺跡
06 力強い輪郭を持つ土偶:岐阜県高山市 岩垣内遺跡
07 大型板状土偶:青森県青森市 三内丸山遺跡
08 小型板状土偶:青森県青森市 三内丸山遺跡
09 二頭身の土偶:山梨県北杜市 諏訪原遺跡
10 笛吹き顔面把手:山梨県笛吹市、甲州市 釈迦堂遺跡群
11 丸顔の顔面把手:山梨県笛吹市、甲州市 釈迦堂遺跡群
12 玉を抱く円錐形土偶:山梨県南アルプス市 鋳師屋遺跡
13 目玉のある土偶:山梨県南アルプス市 〆木遺跡
14 巨大な顔面把手?:神奈川県横浜市 公田ジョウロ塚遺跡
15 ハートのお尻の土偶:長野県諏訪郡富士見町 坂上遺跡
16 頭がくぼんだ土偶:新潟県長岡市 馬高遺跡
17 縄文の女神:山形県最上郡舟形町 西ノ前遺跡
18 出尻土偶:宮城県柴田郡川崎町 中ノ内A遺跡
19 猫耳がついた土偶:青森県東津軽郡蓬田村 山田(2)遺跡
20 胸に穴があいた板状土偶:岩手県宮古市 重茂館遺跡群
21 顔から両腕が出る土偶:秋田県湯沢市 東福寺村上出土
22 髪がハート模様の土偶:富山県砺波市 徳万頼成遺跡
23 四脚がついていた土偶:青森県中津軽郡西目屋村 水上(2)遺跡
24 高い塔のような土偶:福島県郡山市 荒小路遺跡
25 ハート形土偶:群馬県吾妻郡東吾妻町 郷原出土
26 筒形土偶:神奈川県横浜市 稲荷山貝塚
27 顔が前に出た板状土偶:秋田県北秋田市 伊勢堂岱遺跡
28 なで肩の土偶:神奈川県藤沢市 西富貝塚
29 中空土偶:北海道函館市 著保内野遺跡
30 中空土偶、頭部:東京都町田市 田端東遺跡
31 補修されている土偶:岩手県九戸郡軽米町 長倉Ⅰ遺跡
32 つぶらな瞳の山形土偶:岐阜県高山市 西田遺跡
33 胸の大きな土偶:茨城県稲敷市 福田貝塚
34 三角形の頭をした土偶:千葉県銚子市 余山貝塚
35 合掌土偶:青森県八戸市 風張1遺跡
36 丸顔の蹲踞土偶:青森県三戸郡田子町 野面平遺跡
37 ストレッチ土偶:福島県福島市 上岡遺跡
38 目を瞑り天を仰ぐ土偶:北海道千歳市 美々4遺跡
39 パンツをはいた土偶:山梨県北杜市 石堂B遺跡
40 メダル装飾のある土偶:北海道日高郡新ひだか町 静内御殿山墳墓群
41 仮面の女神:長野県茅野市 中ツ原遺跡
42 仮面を付けた土偶:山梨県韮崎市 後田遺跡
43 シカ角のお守り(角偶):宮城県石巻市 沼津貝塚
44 大きく腕を広げた土偶:青森県平川市 堀合遺跡
45 口をあけた筒形土偶:神奈川県藤沢市 向川名貝塚
46 アスファルト土偶:秋田県大館市 塚ノ下遺跡
47 消化器官がある土偶:福井県福井市 高柳遺跡
48 笑う岩偶:秋田県北秋田市 白坂遺跡
49 髪を束ねたみみずく土偶:群馬県桐生市 千網谷戸遺跡
50 腰巻きをつけた土偶:秋田県北秋田市 向様田D遺跡
51 ぐるぐる模様の土偶:福島県会津若松市 墓料遺跡
52 男性土偶:北海道千歳市 ウサクマイA遺跡
53 笑う土偶:青森県三戸郡南部町 虚空蔵遺跡
54 頭があいた遮光器土偶:青森県三戸郡三戸町 八日町遺跡
55 遮光器土偶:青森県つがる市 亀ヶ岡出土
56 王冠のある遮光器土偶:秋田県大仙市 星宮遺跡
57 垂れ目の遮光器土偶:岩手県岩手郡岩手町 豊岡遺跡
58 音の鳴る遮光器土偶:岩手県宮古市 菅ノ沢遺跡
59 パンダ似の土偶:岩手県二戸市 奥山出土
60 模倣系遮光器土偶:北海道茅部郡森町 鳥崎遺跡
61 膝を曲げる土偶:青森県八戸市 是川中居遺跡
62 赤ら顔の結髪土偶:青森県三戸郡南部町 剣吉荒町遺跡
63 角のような結髪土偶:宮城県東松島市 里浜貝塚
64 空を見上げる土偶:岩手県九戸郡洋野町 易国津波貝塚
65 赤いリボンの結髪土偶:秋田県湯沢市 鐙田遺跡
66 耳飾りのある入墨土偶:栃木県栃木市 後藤遺跡
67 眠る土偶:福島県田村郡三春町 西方前遺跡
68 帽子に見える結髪土偶:青森県弘前市 高杉地区出土
69 笑う遮光器土偶:岩手県北上市 大橋遺跡
70 私の恩人:奈良県橿原市 観音寺本馬遺跡

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岡本太郎の『太陽の塔』のモデルになったのではないかとおもわれる『筒形土偶』も掲載されています。

北海道千歳市から出土した『目を瞑り天を仰ぐ土偶』は、お腹のふくらみと乳房から妊娠した女性だとわかりますが、目をとじて天をあおぐような姿は悲しげであり、縄文時代の墓のなかから埋葬者にかぶさった状態で発見されたことから、死者を供養し、再生をいのった土偶ではないかという仮説がたてられます。

土偶の多くは乳房をもち、お腹がふくらんでいることなどから女性であるとかんがえられます。土偶は、墓や貝塚、住居跡、つかいおわったものを廃棄したとおもわれる「捨て場」などから発見されます。完全な形の土偶が出土することはめずらしく、あえてこわしているようにもみえます。

このようなことから、土偶は、再生のいのりのためのもの、とくに死亡した妊婦と赤ちゃんにかかわりがあるのではないかという仮説がたてられます。当時の出産は母子にとってとても危険で、死ととなりあわせであったことは十分に想像できます。またあの世は、すべてがこの世とはあべこべになっていると仮定するならば、この世で土偶をこわしておけば、あの世では完全な姿になれると縄文人はかんがえたかもしれません。すくなくとも土偶は、のちの時代にみられるような権力者の副葬品のようなものでは決してありません。

縄文時代の貝塚や「捨て場」も、ゴミ捨て場であると従来はされてきましたが実際にはそうではなく、死んだ生き物を供養し、再生をいのった場所だったのではないかとかんがえられるようになってきています。


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▼ 注
特別展「縄文―1万年の美の鼓動」
特設サイト
会期:2018年7月3日 ~9月2日
会場:東京国立博物館 平成館


▼ 参考文献
譽田亜紀子著『土偶界へようこそ - 縄文の美の宇宙 -』山川出版社、2017年6月20日