人類と環境の危機について警告しています。人類と環境は一体になってひとつのシステムをつくっており、環境から独立して人類は生きていくことはできません。今ならまだ間に合うかもしれません。
『人類危機 - 未来への扉を求めて -』(別冊日経サイエンス)は、現代にいきるわたしたち人類が直面する課題をあつかう 19 編の記事を収録し、異常気象・自然災害・エネルギー問題・食料危機・感染症など、人類と環境の危機について概観できる内容になっています。



CHAPTER 1 気候変動危機
 異常気象を招く 暴れるジェット気流
 氷を壊し気候を揺さぶる 北極海の大波
 カリフォルニアの大干ばつ
 大都市水害に立ち向かう

CHAPTER 2 環境問題とエネルギー
 不都合な氷 メタンハイドレート
 ソーラー・ウォーズ 太陽光発電 変わる構図
 エネルギーに伴う人的犠牲
 地球の最適解を探る

CHAPTER 3 生態系の再生
 森を動かせ 遺伝子流動アシスト
 湿地修復に妙案
 死海は生き返るか?

CHAPTER 4 食の未来
 組み換えなしで高速育種
 食物連鎖を生かす中国の巨大水産養殖
 オリーブ危機 イタリアで広がる謎の病害
 温暖化が脅かすワインの味

CHAPTER 5 疾病を食い止める
 デング熱ストッパー
 エボラ戦争
 エボラの脅威
 温暖化で北極に広がる病気



CHAPTER 1 気候変動危機

大気上層を東向きにふくジェット気流が通常のコースをはずれて大きく蛇行する頻度がここ数年来たかくなっており、北半球では、北極からの寒気や南からの暖かい空気が地域によってはながれこみやすくなり、寒波や干ばつといった異常気象がおきています。

北極の氷が、地球温暖化モデルの予測よりもはやいペースで融解しています。天候パターンや沿岸を形成している永久凍土の侵食にも影響を及ぼす可能性がある。

前例のない干ばつにカリフォルニアがみまわれています。

ニューヨークでは、大洪水がおこる頻度が高まり、2100 年頃には 2 年に 1 度になると予想されます。気候変動による海流の変化で、米国東海岸の海面上昇が世界平均よりもかなり高くなるとみられるのが一因です。


CHAPTER 2 環境問題とエネルギー

メタンが氷に封じこめられた形で海底に存在するのがメタンハイドレートです。海水温が今後 上昇すれば、ハイドレートからメタンが流出して大気中に達し、地球温暖化を加速する恐れがあります。

屋根の上にならべたソーラーパネルで発電し、家の中でつかう電気をまかないます。あまった分は送電網におこりこんで、電力会社にうります。電気代をはらわなくてよい人が増え、膨大な送電網をどうやって維持管理するかという問題がでてきました。

化石燃料をもやす発電所から排出される微粒子大気汚染による健康被害がふえています。

現代文明は、エネルギー、水、食料という3つの難問をかかえています。これらを個別に解決しようとしてもうまくいかず、横断的な政策によって統合的に解決するとりくみが必要です。


CHAPTER 3 生態系の再生

温暖化による森林の死をふせぐため、水利用や高温耐性に関する遺伝子をもつ樹木をそうした DNA を必要としている別の木の近くに移植して交配できるようにする「遺伝子流動アシスト」とよばれるこころみがはじまりました。

湿地を再生するために、魚類の個体数をふやすとか、水質を改善するとか、ポイントとなる対策を1~2つにしぼりこんで実施し、あとは、自然が本来もつ回復力をいかして生態系を再生させるという方法が有効です。

中東にある湖「死海」の水位がいま、年間 1 m のペースで低下中です。パイプラインで紅海から水を注入する計画などが検討されています。


CHAPTER 4 食の未来

育種家はかつては、改良した作物を農家に無償で提供していましたが、現在では、ひとにぎりの大企業にライセンスせざるをえなくなっており、大きな力を大企業がもちすぎています。

世界のシーフードの 1/3 を生産する中国は世界最大のシーフード消費国でもあり、中国が、養魚場を革新して、海洋での漁獲量をへらせるかどうかが世界の漁場の存亡をきめます。

イタリア南部のオリーブ園で、昆虫が媒介するキシレラ・ファスティディオーサという細菌がひろまっており、当局は、この菌によってオリーブの木が枯死しているとみて、蔓延をふせぐために木々を切りたおしています。

気候変動により、多くのワイン産地の気温があがっており、気温は、ブドウの実の糖分や酸・香りをうみだす微量成分を左右するため、産地特有のワインの風味をたもてなくなるおそれがでてきました。


CHAPTER 5 疾病を食い止める

世界保健機関によると、世界人口の約半数がデング熱の感染の危険にさらされています。ボルバキアという、自然界によくみられる細菌をつかってデング熱とたたかうプロジェクトがすすんでいます。

西アフリカで 2014 年からつづいたエボラ出血熱の流行は、過去最大のアウトブレイクで、2015 年 1 月中旬までに 2 万 1000 人以上が発病し、8500 人を超す死者がでました。

地球温暖化によって北極の気温があがり,以前にはいなかった病原体が繁殖して北極にひろがっています。北極は、感染症と気候変動の「パンドラの箱」となっています。




わたしたち人類は “近代化” とともに、自然環境の大規模な破壊を開始しました。その実例は本書にしめされているとおりです。その結果、自然災害・事故・感染症など、さまざまな災いが今ふりかかってきています。

自然環境を人類が破壊する行為は人類が環境にあたえる作用であり、これはアウトプットとよんでもよいでしょう。これに対して、自然環境が人類に災いをもたらす現象は環境から人類がうける作用であり、これはインプットとよべるでしょう。このことをモデル化(図式化)すると図1のようになります。


180809 人類危機
図1 人類と環境の危機
 

この図をみればあきらかなように、人類と自然環境の問題はつねに一体になっていて、自然環境の危機は同時に人類の危機でもあります。災いは、環境破壊という作用に対する反作用であり、当然の報いといってもよいでしょう。

危機的状況はグローバルにすすんでいます。現在の “路線” を人類がつづけていくかぎり自然環境の破壊はくいとめることはできません。環境から独立して人類は生きていくことはできない以上、いずれ、環境とともに人類は破滅していくでしょう。このことを本書は警告しています。

しかし「未来への扉を求めて」何とかしようとしている人々も一部にはいます。希望をすててはいけません。


▼ 参考文献
日経サイエンス編集部編『人類危機 - 未来への扉を求めて -』(別冊日経サイエンス)日経サイエンス、2016年8月17日