発掘・調査、顔の復元、DNA 分析などによって、旧石器時代に南方の人々が琉球列島にやってきたことがあきらかになりました。大観してから分析するという方法が重要です。
国立科学博物館の企画展「沖縄の旧石器時代が熱い!に関連して講演会「白保竿根田原洞穴遺跡の発掘」が開催されました(注)。

沖縄県石垣島の新石垣空港建設中に一片の人骨破片が発見されたことがそもそものはじまりでした。

ここは、白保竿根田原洞穴遺跡(しらほさおねたばるどうけついせき)と命名されて発掘がはじまり、旧石器時代人の全身骨格や墓の発見・確認にいたりました。

ここの旧石器時代人は、遺体に土をかぶせない「風葬」をしていました。琉球列島では最近まで風葬がおこなわれており、またフィリピンやインドネシアなど、東南アジアの島嶼群でもおこなわれていました。

一方で出土した人骨から、旧石器時代人の顔を復元する研究もおこなわれました。企画展の会場にその結果は展示されています。どこの地域の人々にこの顔は似ているでしょうか? 南方の人々ではないでしょうか。

以上のようなデータから、南方の人々が北上してきて琉球列島にすみついたという仮説がたてられます。

そして人骨の DNA 分析です。DNA 分析には特別な装置とルームが必要です。国立科学博物館の研究施設が新宿から筑波に移転したときに DNA 分析施設も開設されたそうです。

その結果、沖縄の旧石器時代人は、南方の人々にみられる遺伝子をもっていたことがあきらかになりました。すくなくとも北方ではありません。分析によって上記の仮説が検証されました。分析データは決定的な証拠になります。




仮説を証明する決定的なデータをえるために科学的な分析はとても重要です。これは犯罪捜査でもいえることです。推理とともに決定的な証拠が必要です。

ほかの分野でもおなじです。

たとえば地質学者は、何十日もかけて地表をあるいて地質を調査します。しかし一方で、ここぞという場所ではボーリング調査をおこないます。そしてえられた試料を分析します。ボーリングは、経費・労力・時間がとてもかかるのでやみくもにはできません。急所をねらいうちにするようにします。

あるいは天文学者は、課題を明確に設定して、ここぞという場所(急所)をねらって観測をします。観測のまえに宇宙を大観して、望遠鏡をむける方向をきめます。宇宙のあちこちをやみくもに望遠鏡で見つづけるようなことはしません。

このように、大観してから分析するという順序が大事です。 大観して分析する。全体をみて部分にはいる。トップダウンの方法あるいは急所にいどむ方法です。これは、人類学や地質学・天文学・犯罪捜査にかぎらず、あらゆる課題・仕事についていえることです。


180609 大観
図 大観してから分析する
 

大観しないで分析するとやみくもにつきすすむことになり、ますます迷路にはまってしまいます。一度たちどまって大観してみるとよいでしょう。




DNA 分析は、琉球列島の縄文時代人(旧石器時代の後の時代の人)の古人骨についてもおこなわれました。それによると、彼らの遺伝子は九州や西日本の人々と一致します。これにより、縄文時代になってからは、琉球列島へ九州から人々が南下してきたのではないかという仮説がたてられます。

この人のながれは旧石器時代とは方向が逆です。旧石器時代がおわり縄文時代になるとあらたなイベントが日本列島でおこったようです。縄文時代もおもしろそうです。興味がつきません。


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▼ 注
講演会「白保竿根田原洞穴遺跡の発掘」
日付 2018年6月9日
会場 国立科学博物館 講堂
  1. 「白保竿根田原遺跡の発掘」片桐千亜紀(沖縄県立埋蔵文化財センター)
  2. 「白保竿根田原洞穴遺跡の人骨」河野礼子(慶応義塾大学)・土肥直美(文化財サービス)
  3. 「旧石器人の古代DNA研究」篠田謙一・神澤秀明(国立科学博物館人類研究部)