ヒトをふくむ動物にはさまざまな目があります。目の種類によって見え方、見える世界はことなります。見える仕組みを理解することが大事です。
ガリレオ工房編『動物の目、人間の目』(大月書店)はさまざまな動物の目について解説しています。目を比較しながら見る仕組みを理解できます。一見すると子供むけの本ですが内容は高度です。




ミドリムシの目
べん毛のつけ根のわずかにふくらんだ部分に“目”がある。これは、光に反応する色素が集まった緑色の“はん点”にすぎないが、この光センサーで、明暗を感じとり、進む方向を特定する。

ホタテガイの目
殻のふちを取りかこむ外套膜(ヒモと呼ばれる部分)に 60〜100 個もの目がならんでいる。目は、レンズと光を感じる「網膜」と凹面鏡のような組織とでできている。明るさや陰の動き、おぼろげながら物の形もとらえているとされる。

キンメダイの目
レンズと網膜からできている。レンズはほぼ球形で、広い視野がえられる。

昆虫の目
昆虫の目は複眼であり、個眼が集まってできている。個眼の小さなレンズ(水晶体)は焦点距離がたいへん短く、そのため、レンズと視細胞との距離もちかい。昆虫や甲殻類(エビやカニなど)といった節足動物の多くは、複眼をもっている。複眼は、動きの方向やスピードなどをざっととらえるのに適したシステムなんだ。

ヒトの目
ヒトの目の構造はカメラに似ていることから「カメラ眼」と言われている。
  • レンズにあたるのが「水晶体」。厚みを変えてピントを調整する。
  • 光の量をコントロールする絞りの役目をしているのは「こう彩」。
  • フィルムにあたる「網膜」には、光に反応する細胞(=視細胞)がおよそ1億3000万個もしきつめられている。
レンズは網膜上に像をむすぶ。ここで光の情報は電気信号におきかえれれて、脳へ送られる。

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このように、目にはさまざまな種類があり、ヒトは、かなり高度な目をもっています。ヒトは、明暗や形や動きだけをとらえるのではなく、実にたくさんの物事を見ることができます。

ヒトの目にはいってきた光は、電気信号に変換されて脳におくられ、それを脳が処理してイメージをつくりだしているというのが見える仕組みです。これは、デジタルカメラの仕組みと似ていて、カメラでは、レンズからはいってきた光はイメージセンサー(CCD や CMOS)でデジタル信号に変換され、CPU(中央演算装置)とソフトウェアによってデータが処理されて画像が出現します。

このようなことから、光センサーである目とプロセッサーである脳がセットになって見えているということがわかります。脳で見ているといってもよいです。寝ているときに夢を見ることからもイメージは脳がつくりだしていることがわかります。

したがってわたしたちが見ているとおもっている世界は、光から生じた電気信号を脳が処理してうみだした 3D イメージであるといってよいでしょう。

わたしたちヒトは、目の前にいるものがカエルなのか、ネズミなのか、カメなのか、容易に認知・区別できます。このような認知能力は目と脳がセットになってうまれたものであり、目からの情報のインプットだけで認知ができるわけではなく、インプットと同時にプロセシング能力が必要です。インプット能力とプロセシング能力を同時に訓練しないと認知力・判断力はたかまりません。とても重要なことです。

本書には、ステレオ写真とその見方も掲載されています。ステレオ写真を見て立体画像(3D 画像)がうまれるということは、脳の情報融合能力がはたらいているということであり、インプット・プロセシングの基本ができているということです。是非、立体視にチャレンジしてみてください。




上記の動物たちの例を見ればあきらかなように、目のレンズによって見える範囲(視野)はずいぶんことなります。魚は、非常にひろい視野をもっています。

このことはカメラのレンズをくらべてみてもよくわかります。カメラにも「魚眼レンズ」というレンズがあり、これをつかうと非常にひろい範囲を撮影できます。そのほかに、広角レンズ、標準レンズ、望遠レンズがあり、望遠レンズではとおくを撮影できますがその範囲はとてもせまくなります。

動物でも、草食動物のほうが肉食動物よりもひろい視野をもっています。肉食動物がちかづいてきたことをいちはやく察知するために都合がよいです。

また左右の目が顔のどこについているかも重要です。顔の前面に目がついていると、両目の視野のかさなる範囲がひろくなり、つまり、立体視ができる範囲がひろくなります。草食動物よりも肉食動物の方が前面に目がついています。ヒトをふくむ霊長類ではもっと典型的に前面に目がついています。霊長類は立体視の動物だといってもよいです。

またそれぞれの動物の目によって、とらえられる光の波長がちがいます。たとえばヒトは、約 400〜760 nm(ナノメートル)の波長の光をとらえることができますが、昆虫は、約 300〜640 nm の波長の光をとらえています。すなわち昆虫は、赤い光は見えませんが紫外線を見ることができます。したがってヒトが見ている花と、昆虫が見ている花は色がまったくことなります。

そもそも光には波長があるだけで色はついていないことを物理学者があきらかにしています。色も実は脳がつくりだしているのです。物そのものには「色」はついていません。

このように見てくると、目の種類によって見え方、見える世界はずいぶんことなることがわかります。それぞれの動物がそれぞれに世界をつくりだしています。わたしたちヒトが見ている世界はヒトの世界でしか実はなかったのです。


▼ 参考記事
脳の情報処理の仕組みを理解する 〜DVD『錯覚の不思議』〜
眼はセンサー、脳はプロセッサー - 「視覚のしくみ」 (Newton 2015年 11 月号) -
目と手を訓練する - 国立科学博物館・地球館3階「大地を駆ける生命」 -

▼ 参考文献
ガリレオ工房編『動物の目、人間の目』(びっくり、ふしぎ写真で科学3)大月書店、 2003年7月30日