名作誕生までのドラマには、模倣、消化という前段階がありました。模倣からはじまりますが、手本をのりこえ独創にいたります。伝統に根差した創造があり、創造の伝統がうまれます。
特別展「名作誕生 - つながる日本美術」が東京・上野の東京国立博物館で開催されています(注1)。日本美術史上にかがやく名作たちの影響関係や共通する美意識に着目し、国宝・重要文化財をふくむ約 130 件をとおして名作誕生のドラマをえがきだします。


第1展示室 祈りをつなぐ
 1. 一木の祈り
 2. 祈る普賢
 3. 祖師に祈る

第2展示室 巨匠のつながり
 4. 雪舟と中国
 5. 宗達と古典
 6. 若冲と模倣

第3展示室 古典文学につながる
 7. 伊勢物語
 8. 源氏物語

第4展示室 つながるモチーフ/イメージ
 9. 山水をつなぐ
 10. 花鳥をつなぐ
 11. 人物をつなぐ
 12. 古今をつなぐ


わたしはとくに、第2展示室「若冲と模倣」に注目しました。

伊藤若冲(1716-1800)は、京都の青物問屋の主人を引退して画家となり、中国や朝鮮の絵画を模写してまなぶとともに実物写生に精進し、動植物を細密にえがくのを得意としました。代表作は、相国寺に寄進した花鳥画 30 幅の「動植綵絵」です(現在は宮内庁三の丸尚蔵館蔵)。

会場では、花鳥画の名手として知られた中国・明時代の画家、文正の「鳴鶴図」と、若冲がえがいた「白鶴図」がならべて展示してあります。

  • 文正「鳴鶴図」
  • 若冲「白鶴図」

文正の「鳴鶴図」は 15 世紀に日本にもたらされたものであり、一見して、若冲の「白鶴図」は模写であることがわかります。

若冲は、画業の初期に、「宋元画」を模写してなまぶこと一千点にのぼったといいます。文正の「鳴鶴図」と若冲の「白鶴図」の比較は若冲の模写の実態をしる貴重な事例であり、若冲の「白鶴図」は、彼の代表作「動植綵絵」の制作以前にこのような準備段階があったことを如実にしめしています。 若冲も模倣からはじめていたというわけです。

ただし若冲の「白鶴図」は単なるコピーではなく、線描と輪郭が強調され、形そのもののおもしろさが原本の自然らしさよりも前面にでています。背景も、ほかの中国画のモチーフを引用し、明快な形のくみあわせになっています。つまり手がくわえられているのです。

このような若冲の工夫・操作・改良のなかにのちの名作「動植綵絵」の表現にむすびつく手法がふくまれており、若冲は、宋元画の模倣・影響というレベルにとどまらず、とりいれたものを消化し、独自の創作活動にむすびつけていったのです(図)。


180519 模倣
図 名作誕生(創造)の3段階(注2)


今回の特別展をみればあきらかなように、仏像、仏画、水墨画、扇絵、風俗画、浮世絵、工芸品など、どれをみても、まったくのゼロからできあがったというものはひとつもありません。


一木の祈り(第1展示室)
天平勝宝5年(753)、中国・唐の高僧、鑑真とともに渡来した仏師たちは日本の木材に着目し、一本の木から重量感あふれる仏像を彫りだしました。その後、一木造の仏像が数多くつくられるようになり、日本の一木造の伝統がうまれました。「仏さんは木の中にすでにいらっしゃる」といった思想もこうした伝統のなかでうまれました。

雪舟と中国(第2展示室)
室町時代の画僧・雪舟等楊(1420~1506?)は応仁元年(1467)、47歳のときに明にわたり、足かけ3年の滞在中にさまざまな画技をまなび、帰国後、独自の水墨画を確立しました。

伊勢物語、源氏物語(第3展示室)
日本を代表する古典文学である『伊勢物語』や『源氏物語』の心にのこる場面が、その情景を想起させる特定のモチーフのくみあわせによって工芸品にあらわされました。文学作品から継承された意匠の名品の数々があります。

山水をつなぐ(第4展示室)
松林図屛風(しょうりんずびょうぶ、安土桃山時代・16世紀、東京国立博物館蔵)は、長谷川等伯の代表作というばかりでなく、近世水墨画の最高傑作として知られています。中国絵画からの影響もみとめられますが、日本水墨画の到達点と評され、日本の水墨画を自立させたといわれます。


わかいとき(初期段階)の修業として模倣をするということは、美術にかぎらずどの分野でも必要なことでしょう。創造のためにはまずは模倣が必要であり、模倣があるところに伝承・継承が生じます。しかし模倣でおわってはいけません。ふるいものをうちやぶり、それをのりこえていった先にあたらしいものがうまれます。模倣・継承のうえに創造があります。

「名作誕生」のドラマには、伝統に根差した創造があり、また創造の伝統がありました。伝統と創造というと矛盾するようですが矛盾せず、伝統があってこそ創造ができ、創造の姿勢としての伝統があります。本当の伝統とは創造的なものです。

このようにかんがえると、創造のためには、どのような伝統のなかに身をおくかということも大事になってきます。世の中にはさまざまな伝統があります。中国の伝統、日本の伝統、西洋の伝統・・・。日本国内でも、関東と関西、東北と九州、それぞれに独自の伝統があります。

また日本は、ふるくから中国を手本としていましたが、明治維新以後は欧米を手本とするように変わりました。そして明治維新から 150 年がたった今日、欧米の模倣をしているだけではおもしろくないという気運がたかまってきています。創造的な芸術家や学者が日本からもうまれています。創造の3段階における第2段階、第3段階にはいってきました。このような時代の潮流に気がつくことも大事だとおもいます。
特別展「名作誕生-つながる日本美術」
会 期:2018年4月13日 ~5月27日
会 場:東京国立博物館 平成館(上野公園)
東京国立博物館のサイト
特設サイト

▼ 注2
日本では、このような3段階を「守破離」ともいいます。今回の特別展全体をつらぬいているのはこのような3段階です。

▼ 参考文献
東京国立博物館『名作誕生 - つながる日本美術』(特別展図録)2018年