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仁和寺・観音堂を展示室に再現
(平行法で立体視ができます)
天皇は仏教徒でもありました。日本仏教は神仏習合であったのであり、日本文化は重層文化でした。
特別展「仁和寺と御室派のみほとけ -天平と真言密教の名宝-」が東京国立博物館で開催されています(注)。京都市右京区にある真言宗御室派の総本山・仁和寺の寺宝のほか、御室派の寺院が所蔵する名宝の数々を一堂に紹介しています。

仁和寺は、平安時代の創建以来、天皇家出身の人物が代々出家してはいった門跡寺院ですので「もうひとつの御所」とよんでもよいでしょう。

光孝天皇が、仁和2年(886)に建立を発願し、次代の宇多天皇が仁和4年(888)に完成させた真言密教の寺院であり、歴代天皇のあつい帰依をうけたことから、すぐれた絵画・書跡・彫刻・工芸品が今日につたわります。

真言宗御室派の総本山であり、「御室」とはもともと、仁和寺を建立した宇多法皇のためにもうけられた室(僧坊=僧侶の住居)をさしました。鎌倉時代以降は、この御室が仁和寺そのものをしめす呼称となっていき、御室を冠した御室派は、全国約 790 箇寺からなる真言宗の一派になりました。

現在、貴重な遺産(京都御所を移築した建物や膨大な宝物など)を将来にひきつぐためのプロジェクトがすすめられており、観音堂の解体修理が約 370 年ぶりおこなわれ、これを記念して東京国立博物館にその内部が特別に再現されました。このコーナーだけは撮影可能で、今回の特別展の目玉になっています。


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観音堂内部を再現
(平行法で立体視ができます) 


本尊の千手観音、降三世明王と不動明王、従者 28 部衆、風神・雷神がおでましです。これら 33 体の安置仏を展示するとともに堂内の壁画を高精細画像によって再現し、普段はふれることのできない堂内のおごそかな雰囲気を体感することができます。

千手観音にしたがう 28人の武将像には、持国天・多聞天・梵天・広目天・増長天・帝釈天など、インドのヒンドゥー教由来の神々がふくまれます。たとえば漢訳の仏典で「○○天」と訳されたのがヒンドゥー教の神さまです。中国では、天を祀ることが儒教の宗教儀礼であり、皇帝が天を祀り、中国のトップランクは天であるので、ヒンドゥーの神々を訳すときに「○○天」としたわけです。

その役割は仏さまの「ガードマン」です。鎧を着て武器を手にした者がいるのはそのためです。「ガードマン」らは、仏になろうと修業する人々のすべてをまもってくれので民衆の信仰としても日本全国にひろまりました。ヒンドゥー教の神々が日本にもはいりこんできていることに気がつくことは重要なことです。




本展をみていると、天皇家の人々はもともとは仏教徒であったことがわかります。しかし天皇というと神官の最高位とかんがえる人々もおり、矛盾するのでしょうか。

そもそも日本では、およそ 1000 年にもわたって、神は、世の人々をすくうために仏が姿をかえてこの世にあらわれたとする本地垂迹説が採用されてきました。本地とは本拠地のことであり、仏や菩薩のいるインドのことです。垂迹とは移動することであり、インドから日本への移動、つまり、インドの仏や菩薩が日本にきて神さまになりましたということです。要するに神仏習合(神仏混淆)です。幕末までは、神仏習合が日本の基本的な文化でした。

実際、仁和寺でも、初代別当幽仙が、各地の重要な神々を勧請し、伽藍鎮守として九所明神社を建立しています。本特別展でも、観音堂にひきつづく第5展示室「御室派のみほとけ」をよくみれば、日本の仏教は神仏習合であったことがわかります。

明治維新以後、神仏分離と廃仏毀釈が明治政府によっておこなわれましたが、神仏習合を認識しないと日本の歴史・伝統は理解できません。

このように日本仏教は、大陸の元来の仏教とはことなるものであり、日本で独自な発展をとげたとかんがえたほうがよいでしょう。日本人は、外来文化をとりいれると、在来のふるい文化と統合して再体系化してしまいます。重層文化の構築です。

日本人は、単なる物まねをしているのではありませんでした。多様な文化をうけいれて融合させていく伝統があったのであり、ここに、異質な人々と共存する知恵と可能性があるのだとおもいます。


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▼ 注
特別展「仁和寺と御室派のみほとけ -天平と真言密教の名宝-」
会場:東京国立博物館 平成館
会期:2018年1月16日~3月11日
東京国立博物館のサイト
特設サイト



▼ 参考文献
久保智康・朝川美幸著『もっと知りたい仁和寺の歴史』(アート・ビギナーズ・コレクション)東京美術、2017年12月10日