ゲノム編集技術がいちじるしく発展しています。デザイナーベビー誕生が現実味をおびてきました。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton』は、2018年2月号から、新連載「ゲノム編集の三大インパクト」を開始しました。第1回は「“デザイナーベビー” は産まれるのか」です。2012年に発表されたあらたな「ゲノム編集技術」によって、ヒトの遺伝子をかきかえようとする試みが現実味をおびてきました。




ゲノム編集技術の「ゲノム(Genom)」とは、DNA にしるされた遺伝子(gene)などの情報のすべて(-ome)のことです。

ゲノム編集技術を使えば、どの遺伝子であっても細胞の中でねらって書きかえることができます。

「生殖医療」では、ゲノム編集技術によって、産まれてくる子供を従来はさけられなかった病気にせずにすむようになるかもしれないといいます。一方で、親たちの好みの性質をもたせた、いわゆるデザイナーベビーが産まれるかもしれないとも。

■ ゲノム編集の手順
  1. 卵子を採取
  2. 体の外で受精
  3. 受精卵に、ゲノム編集の“道具”「CRISPR-Cas」を注入
  4. DNA に編集がほどこされる


ゲノム編集技術によって、子供の知能をたかくしたり性格をコントロールすることはむずかしいですが、身長を高くしたり視力をよくすることは可能だといいます。また特定のウイルスや病気につよい人間をつくりだすことも可能だそうです(“代償” として別の病気によわくなってしまうかもしれませんが)。

たとえば肉体的能力が重視されるスポーツ選手やルックスが重視されるモデルなどを産みたい、そだてたいとおもった親はゲノム編集技術にすぐにとびつくでしょう。こうして親がデザインして産まれてくるのが「デザイナーベビー」です。

しかしこのようなデザイナーベビーは親の “所有物” であって、人格をみとめられていません。スポーツ選手やモデルになるという同意をえないで産まれてきて、それにさせられるのです。肉体はそれにむいているかもしれませんが、心(精神)の方は大丈夫でしょうか?

デザイナーベビーではない普通の子供でも、親が、子供の人格をみとめず、親の好み・欲望にもとづいて特定のスペシャリストにしようとして失敗、親子ともに不幸になったという事例はすでにたくさんあります。

あるいは親の気にいるようにゲノム編集ができなかった受精卵はどうなるのでしょうか? 物を廃棄するようにポイとすててもよいのでしょうか?「命の選別」という問題がおこります。

また人間は、遺伝的要因だけで人生がきまるのではなく、環境要因も重要です。たとえばゲノム編集技術によって糖尿病になりにくい人間を産みだした場合、今の時代はいいかもしれませんが、将来、食生活が大きく改善されたり、飢餓の時代が到来したりするとその人は生きぬけなくなります。人間は、環境とセットになって生存しているのであり、環境の変化に適応するという観点をつねにもっていなければなりません。

またゲノム編集技術は親子だけに関わる問題ではありません。ゲノム編集がほどこされたデザイナーベビーが成人すれば、その人自身の精子や卵子にもゲノム編集がひきつがれ、さらにその子孫にまでひきつがれていきます。

将来的に、ゲノム編集が普通におこなわれるようになった場合、人間は、遺伝的多様性をうしなっていくかもしれません。すると環境への適応力がよわくなり、絶滅への道をすすんでいくことになります。

そのほか、ゲノム編集のミスによる医療事故、犯罪などに悪用されるというリスクもあります。

人類は、かつてないおそろしい時代をむかえました。日本学術会議は、「受精卵などへゲノム編集をほどこす医療は最低限、指針によって当面禁止すべき」であり、「法規制の必要性も検討すべき」であると提言しています。

しかし「指針」による規制には法的な罰則はなく、強制力はありません。デザイナーベビー誕生の一線をこえるのはそうとおくないかもしれません。


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▼ 参考文献
『Newton』(2018年2月号)ニュートンプレス、2018年2月7日発行