部分と全体の自己相似性に気がつくといろいろなことが見えてきます。「進化の木」はフラクタルになっています。
キャシィ=ウイリス・キャロリン=フライ著『キューガーデンの植物誌』(注1)は、世界屈指の植物園で、世界遺産にも登録されているイギリスの王立キュー植物園(キューガーデン)(注2)をとおして、植物学の発展過程を具体的にえがいています。英国放送協会(BBC)が 25 回のシリーズで放送した内容を書籍化したものです。




241ページには「植物進化の木」(系統樹)がでていて、植物学の近年の進歩について説明しています。

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1990年代の初めに、キューのジョドレル研究室を中心とした、国際的な植物学者の集まりが、遺伝子配列に基づいたまったくあたらしい分類方法確立を追求し始めた。彼らの目的は、植物の外見だけでなく、その構成分子に注目し、遺伝子の分析によって植物の分類を行うことであった。


このようなあたらしい研究にもとづいて「進化の木」(系統樹)の書きかえもおこなわれています。系統樹は、もとひとつのものからしだいに枝分かれしていく生物進化の過程を図としてしめしたものであり、樹木の枝分かれの構造と似ているのでこのようによばれます。

進化論によると、木は、進化の結果うまれたのですから、進化の全体からみると木は部分のはずですが、この図では、1本の木のなかに進化が表現されています。まるで、部分に全体がやどっているかのようです。これは、単なる類似性にすぎないのか、それとも生命の本質をあらわしているのか?

類似性ということでは、木の葉の構造も葉脈が枝分かれしたような構造をしています。したがって「もとひとつのものから枝分かれした」という点で葉・木・系統樹は似ています。しかも葉・木・系統樹は小・中・大の階層構造になっています。

  • 系統樹

こうして類似性と階層構造に注目すると、部分と全体が自己相似になっているというフラクタルがみえてきます。

フラクタルを前提にすると、部分をみて全体を類推したり、全体をみて部分を類推したり、みえないところを類推したり、さまざまな想像や発想ができます。これは類比法の実践です。




近年の植物学の進歩により、植物病対策として遺伝的多様性が必要なことがあきらかになりました。生物多様性を保全するためには、生態系の多様性、種の多様性とともに、遺伝的多様性も保全していかなければなりません。多様性にも階層構造があります。


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▼ 注1:参考文献
キャシィ=ウイリス・キャロリン=フライ著(川口健夫訳)『キューガーデンの植物誌』原書房、2015年6月30日

▼ 注2
キューガーデン
Royal Botanic Gardens, Kew