「アフリカのサバンナ」ゾーンでみられる、自然環境と動物たち、ダトーガ族のくらしから、〈民族-文化-自然環境〉システムが想像できます。
よこはま動物園ズーラシア(注1)の「アフリカのサバンナ」ゾーンにいくとサバンナの風景(環境)が再現されていて、キリンやグラントシマウマ・エランド・チーター・ライオン、またサバンナ周辺の森にいる鳥類など、さまざまな動物たちをみることができます。

一方で、サバンナでくらす牧畜民・ダトーガ族についても紹介しています(注2)。ダトーガ族は、「ゲーダ」とよばれる円形の敷地のなかに住居をつくり、敷地のなかで家畜を飼い、昼間は放牧にでかけて暮らしています。主食は牛乳です。衣服は、ヒツジやヤギの皮でできたものを以前は着ていましたが、今では、大きな一枚の木綿布で体をくるむようにする「ゴロレ」を着ています(注3)。大切な日用道具としては杖をつかい、放牧のときにウシを追ったり、野獣とたたかったり、ヘビをおさえたりします。いろいろなヒョウタンももっていて、乳をいれておく、ヨーグルトやバターをつくる、子供ができた祝いに牛乳をプレゼントする、儀式のときに蜂蜜酒をつくるなど、用途はさまざまです。

このようにダトーガ族は、家畜を飼育しながら食料をえて、衣服や住居や道具などをつくりだして暮らしています。家畜・衣服・住居・道具などは、自然環境を利用してダトーガ族がつくりだしたものであり、ダトーガ族と自然環境の相互作用(かかわりあい)によって生まれたものです。モデルであらわすと、家畜・衣服・住居・道具は、ダトーガ族とサバンナ(自然環境)のあいだに位置づけられます(図1)。

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図1 ダトーガ族とサバンナ


ダトーガ族はこうして、独特な生活様式(ライフスタイル)をうみだしており、このよな家畜・住居・衣服・道具・生活様式などは総称して文化とよんでもよいでしょう。ダトーガ族にはダトーガ族独自の文化があるのです。ダトーガ族にかぎらず、地球上のあらゆる民族はこのような文化をもって生活しています(図2)。

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図2 〈民族-文化-自然環境〉システム


衣服や住居は、自然環境からうける作用をやわらげ、快適なくらしをもたらします。文化には、自然環境を利用するだけでなく、緩衝装置(緩衝帯)としての役割もあります。他方で、動物を飼いならしたり、自然の素材から道具を生産することは自然環境へのはたらきかけです。文化は、自然環境を改変する役目もになっています。このように文化には、自然環境と民族を介在する役割があります。

自然環境から民族への作用はインプット、その逆の、民族から自然環境への作用はアウトプットとよんでもよいでしょう(図3)。 

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 図3 自然環境と民族の相互作用
 

いいかえると文化というものは、インプットとアウトプット、自然環境と民族の相互作用によってうまれてきたものです。自然環境と民族は、動的にかかわりあいながらともに変化してきています。

このようなモデルをつかって「アフリカのサバンナ」ゾーンをみれば、統一的・直観的に全体が理解できるとおもいます。それにしてもよくできた展示でした。


▼ ズーラシア「アフリカのサバンナ」ゾーンの記事
視野を拡大する - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(1)-
生命のシステムを知る - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(2)-
環境のひろがりを想像する - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(3)-
半自然のモデル - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(4)ピグミーゴート -
〈人間-住居-自然環境〉システム - ズーラシア「アフリカのサバンナ」(5)ダトーガ族の住居 - 

▼ サバンナ(サバナ気候)関連記事
モデルをつかって気候帯をとらえる -『気候帯でみる! 自然環境〈1〉熱帯』(少年写真新聞社)-

▼ 注1
よこはま動物園ズーラシア

▼ 注2
「アフリカのサバンナ」ゾーンの「ダトーガ族の家」では、「日本人が貢献したアフリカ研究」として民族学者・理学博士の梅棹忠夫(1920-2010)についても紹介しています。梅棹忠夫は、1963年7月から1964年3月までタンザニアのエヤシ湖周辺に滞在し、ダトーガ族の生活様式・住居・言語などをおもに調査しました。その後1974年に、国立民族学博物館を創設、初代館長に就任しました。ズーラシアの「アフリカのサバンナ」ゾーンのコンセプトと展示がすぐれているのは、梅棹忠夫の生態学・民族学を勉強した人たちが企画・製作・展示をおこなったためであると想像されます。

▼ 注3
衣服は、暑さ寒さをやわらげ人間の体温を一定にたもつ役割をもっています。一種の緩衝装置です。人間以外の動物は、体毛や厚い皮下脂肪によって体温を一定にたもつので服はきません。ペットに服を着せている人がいますが、そのようなことはしないほうがよいです。進化論的にみて人間は、体毛がなくなったときに、動物の毛皮を最初は身にまとったとかんがえられます。その後、もっと便利な衣服を開発しました。人間はいつ、体毛がなくなって毛皮そして衣服を身につけるようになったのかわかりませんが、衣服は、人間の文化のはじまりと進歩をかんがえるときのもっとも重要な要素であるといえるでしょう。

▼ 参考文献
梅棹忠夫著『梅棹忠夫著作集 8 アフリカ研究』中央公論新社、1990年7月20日
梅棹忠夫著『狩猟と遊牧の世界 自然社会の進化」(講談社学術文庫)講談社、1976年6月 
村田浩一監修『よこはま動物園ズーラシアガイドブック 改訂版 II』公益財団法人横浜市緑の会発行、2015年4月22日(正門ちかくのショップで購入できます)