伊藤若冲の『動植綵絵』にはフラクタルが表現されていました(かくされていました)。フラクタルに気がつくことは、自然や宇宙の構造と進化について認識をふかめることにつながります。
赤須孝之著『伊藤若冲製動植綵絵研究』は、近年 注目されている伊藤若冲の『動植綵絵』に、自然科学的・哲学的・宗教学的な観点からあらたな光をあてた画期的な研究書です。とくにフラクタルに関する発見と解説がすばらしいです。写真と図をつかってわかりやすく解説されているので、誰でも理解することができます。むずかしくありません。



「動植綵絵」は単なる絵画ではなく、若冲が真摯な自然観察のなかから独自に発見した自然界の形態形成の原理が表現されたものであり、さらに、それを基礎とした「万物斉同」、「一切衆生悉有仏性」、「草木国土悉皆成仏」で代表される彼の哲学や宗教への思いまでもが描きこまれたものと推測されるのである。(中略)

若冲は美の巨人であると同時に、科学、哲学、宗教をも探求した独創的な知の巨人でもある、というのが本書の主旨である。

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若冲については、彼の芸術性のたかさは誰もがみとめるところですが、彼の自然科学や哲学・宗教学的側面については解明されていませんでした。本書は、若冲のこれらの側面にあらたに焦点をあてています。

とくにフラクタルに関する研究と解説がすばらしいです。本書の解説図をみて、フラクタルについて是非 理解してください。

フラクタルとは、全体を、部分に分解して拡大して見たときに、部分が全体と相似になっている形(構造)のことです。どんどん拡大して見ていくと、すべてのスケールにおいて、より小さな2個以上の相似部分がどんどんあらわれてきます。本書をひらくと、写真や図をとおしてフラクタルを直観的に認識することができます。

若冲は、自然界のフラクタルに気がついていました。そして多数のフラクタルを『動植綵絵』にえがきこんでいたのです。

フラクタルは、自然界あるいは宇宙の構造形成の原理といってもよいでしょう。したがって『動植綵絵』をとおしてフラクタルを見ることは、自然や宇宙の構造と進化について理解をふかめることになってくるのです。

フラクタルについて、言葉で理解するのではなく、『動植綵絵』を見てみずから気がつくことが大事です。おしえられるのではなく、鑑賞者がみずから気がつく、自覚することこそが必要だと若冲はかんがえていたのでしょう。


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▼ 参考文献
赤須孝之著『伊藤若冲製動植綵絵研究 -描かれた形態の相似性と非合同性について-』誠文堂新光社、2017年1月11日