構造的にみたら、進化論の観点からストーリー的にとらえると人体について理解がふかまります。
人体新書 ILLUSTRATED』(Newton別冊)は、江戸時代の画期的な解剖学書『解体新書』の現代版です。人体を解剖したらどみえるか? すべての器官をイラストで解説した人体図鑑です。見開き2ページで簡潔に説明していて大変わかりやすいです。




第1章「人体の解剖図鑑」では、感覚器官・脳・心臓・肺・肝臓や腎臓などの仕組みと働きを説明しています。第2章「人体の細胞図鑑」では、それぞれの器官を形成する細胞の種類と役割について説明しています。第3章「人体の免疫システム」では、病原体から体をまもる免疫細胞について説明しています。第4章「人体の起源と進化」では、それぞれ器官は、どのような生物のどのような器官から進化したのか、人体の器官の起源と進化について説明しています。

人体を解剖して、それぞれの器官の構造をみるとその仕組みと働きがわかります。さらにこまかく分析的にみていくと、各器官は、多くの細胞があつまってできていることがわかります。それらの細胞の専門的な働きによって、それぞれの器官の役割がなりたっています。

本書は図鑑ですので、興味のあるところから、あるいは必要に応じて必要な箇所をみていくといったつかいかたをすればよいでしょう。




ただし第4章「人体の起源と進化」は異色です。本書の特徴といってもいいかもしれません。


「腸ほど古い臓器はないでしょう。腸の最も原始的な姿はヒドラ(刺胞動物)で見ることができます」。(中略)腸は、その後、さまざまな消化系器官を生みだした。

カンブリア紀(5億4000万年〜4億8800万年前)に生きていた「ピカイア」という生物の化石に、背骨の原型である「脊索」を見ることができる。

古生代の無顎類テロドゥス目の魚たちの化石には、体表に「小歯」とよばれる小さな歯のようなものが並んでいる。小歯もエナメル質様の組織でおおわれており、これが私たちにつながる歯の起源だとういうのが有力な説だ。

肺呼吸をする魚類、ハイギョの仲間の段階で鼻の孔は口の天井部分に貫通し、呼吸器の一員となる準備をととのえていたのである。(中略)四つの鼻の孔のうち、残りの二つはどこに行ってしまったのだろうか? 実は残り二つは、進化の過程で眼に移動していくことになる。

初期の脊椎動物の頭部にあった側線が体内に埋まりこんで内耳になった。

原始の肺は腸(原始腸)の前方が袋状にふくらんでできたと考えられている。原始の肺に近いものはハイギョで見ることができる。

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もっとも起源がふるい器官は腸です。進化により腸から、肝臓・膵臓・胃が分化しました。また口と肛門ができました(注)。さらに腸の入り口にできた神経細胞の集合が脳になりました。

背骨の原型はおよそ5億年前の「進化の爆発」(カンブリア爆発)で出現しました。

歯は、もともとは体表に生えていました。

鼻の孔が貫通して、鼻は呼吸器の仲間になりました。鼻の孔は最初は4つもありましたが、2つは鼻の孔になり、のこりの2つは眼になりました。涙をながしつづけると鼻水がでるのは「鼻涙管」とよばれる管で眼と鼻が通じているからです。この鼻涙管は、わたしたちの祖先が魚だったころに鼻の管だったものを転用したものです。

耳の起源は、魚の体表に分布する「水流を感知する器官」でした。

肺は、腸から飛び出した袋として誕生しました。

それぞれの器官は誕生後、ながい時間をさらにかけてそれぞれに機能を高めていきました。そしてわたしたちヒトの体ができました。人体には進化の歴史がつまっています。人体をみれば進化の歴史がわかります。

本書ではほかに、直立二足歩行が可能になったわけ、直立二足歩行後に進化した器官、脳や声帯の進化、毛皮をすてて "裸" になったわけ、女性の乳房の進化などについても考察をくわえています。そしてヒトは進化の終着点ではありません。地球上の生物は進化をつづけているのであり、あらたな歴史をこれからもきざんでいきます。




本書をみると、第1章〜第3章では構造的に人体をとらえることができ、第4章では、歴史的・時系列的にそれをとらえなおすことができます。構造的・空間的な見方と歴史的・時間的な見方とがあわさったとき、認識は一気にすすみます。

進化論の観点から歴史的・時間的にみると、ストーリーがそこにあることがわかります。これがおもしろいのです。これは分析とはちがう総合の方法です。複雑で多様な情報をストーリー化すると、全体的に、トータルに対象をとらえなおすことができるのです。


▼ 注
腸は、〈インプット→プロセシング→アウトプット〉システムの原形となる器官です。

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▼ 参考文献
『人体新書 ILLUSTRATED 体の構造としくみを徹底解説』(ニュートン別冊)ニュートンプレス、2014年2月27日