さまざまな手の形
(交差法で立体視ができます)
受精卵が細胞分裂をくりかえして体がつくられます。個体発生のしくみを知ることは情報処理能力の向上のために役立ちます。
東京・上野の国立科学博物館で、企画展「卵からはじまる形づくり 発生生物学への誘い」が開催されています(注1)。

ヒトはみんな最初は、直径 0.2mm の受精卵でしかありませんでした。しかし受精卵ができてからわずか約10週間でヒトらしい姿になります。この劇的な変化(成長)を展示・解説でたどることができます。写真は交差法で立体視ができます。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 - >>



ヒトの腸管の模型
腸管は、はじめは小さいですが、長さをのばしながら、きまった場所から突起がでてきて、それぞれの臓器ができます。



ヒトの脳の模型
最初は、長さ2mm、直径0.2mm の神経管という小さな管があらわれます。これが脳のはじまりです。この管の前方がふくらんで脳になっていきます。



ヒトの手の模型
手や足は、胚の体の横がすこしずつふくらみ、のびることでつくられます。手足をつくるこのふくらみを「肢芽」(しが)とよびます。肢芽の発生の後期に、アポトーシスという現象によって、指と指のあいだの組織が死に、それぞれの指がはなれます。つまり指ができます。




わたしたちの体はたったひとつの受精卵からスタートし、それが細胞分裂をくりかえすうちに腸管ができ、脳や手がつくられます。発生生物学者たちは、細胞が、遺伝子の指令をうけて組織や臓器をつくりあげるとかんがえています。このような個体発生のしくみは生命の神秘としかいいようがありません。

わたしたちヒトは、腸管の形成により食物の「摂取→消化→排泄」ができるようになり、脳の形成により情報の処理ができるようになり、指をふくむ手の形成により、絵や文字を書いたり、物をつくったりできるようになります。




ほかの動物とヒトを区別する器官として脳が重要なのはいうまでもないですが、わたしは手にも注目したいとおもいます。本展の展示をみれば、ヒトは、指をふくむ手が非常によく発達するようにできていることがわかります。手が発達すると、絵や文字がかけるだけでなく、料理をつくったり工芸品をつくったり楽器を演奏したりすることもできます。キーボードをうつこともできます。高度な手なくして文明は成立しませんでした。

実は手は、表現のための、アウトプットのための器官(道具)としてきわめて重要です。アウトプット器官として手をとらえなおさなければなりません。いくら脳が発達しても手が発達しなければアウトプットはできません。何をやっているのかわかりません。

指をふくむ手を自在にうごかせる人は情報処理能力がたかいという説が有力です。指をたえず鍛錬することで健康を維持している人はすくなくないそうです。ピアニストは長寿だというデータがあります。指を大切にすることは長生きにつながります。日常生活のなかで手や指を積極的につかうようにするとよいでしょう。


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▼ 注1
国立科学博物館 企画展「卵からはじまる形づくり 発生生物学への誘い」

▼ 注2
本展ではあまりとりあげられていませんでしたが、目・耳・鼻・舌・皮膚などの感覚器官も個体発生により生じてきます。これらは情報のインプット器官として重要です。

▼ 参考文献
栗田昌裕著『奇跡を呼ぶ指回し体操』(学研M文庫)学習研究社 2000年9月