エチオピアの急激な開発により、草原とゲラダヒヒが窮地にたたされつつあります。人間と野生動物の棲み分けが崩壊してきています。
『ナショナルジオグラフィック 2017.4号』では、「エチオピア 草原に生きるゲラダヒヒ」について特集しています。



ゲラダヒヒは現在、エチオピア高原にしか生息していない。数百万年前には、同じゲラダヒヒ属のサルたちはアフリカ南部からイベリア半島、インドにまでいたが、気候変動の影響や、ほかのサルとの生存競争、初期人類による狩猟などが原因で、ゲラダヒヒ以外は絶滅に追いやられたと考えられている。


ここは、アフリカ・エチオピア高原にあるメンス=グアサ地域自然保護区、地元住民による自然保護活動が500年ちかくにわたってつづけられてきました。

一方、ゲラダヒヒの独特な形態や食性・生態を調査することは霊長類の進化の謎をときあかすことに役立ち、ゲラダヒヒの保護は霊長類学・人類学的にみても重要です。

しかしエチオピアの人口は2050年までに1億8800万人に達するといわれ、これは、1950年の人口の10倍にあたります。これにともなって国土の開発が急激にすすんでいます。その影響で農民が、ゲラダヒヒが餌場にしていた草原にまではいりこんで草を刈るようになり、それにしたがってゲラダヒヒが農地を頻繁にあらすようになってきました。人間とゲラダヒヒが接触するようになってきたのです。

草を主食とするゲラダヒヒを保護したければ、彼らの食料となる草をまずまもる必要があります。このまま開発がすすめば、メンス=グアサ地域自然保護区とそこにくらすゲラダヒヒたちは窮地にたたされることになります。

エチオピアとはかぎらず、野生動物の危機と絶滅は世界各地ですすんでいます。ここには、人間と野生動物の棲み分けの崩壊という共通した問題があります。これまでは人間は、棲み分けによって野生動物と共生してきたのです。しかし今日それが崩壊し、人間の手によって大量絶滅がすすめられています。このことに気がつくことはとても重要なことです。


▼ 引用文献
『ナショナルジオグラフィック 2017.4号』日経ナショナルジオグラフィック社、2017年3月30日