動物の体のつくりから、そのライフスタイルやその背後にある生態系や進化を想像することができます。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton 2017.5号』の Topic では「草食動物に秘められた体のふしぎ」について解説しています。




草食動物の体の特徴はつぎのとおりです。

  • かたい植物を効果的にすりつぶせる奥歯をもつ。
  • 植物繊維を分解する微生物を大腸で "飼う"。
  • ”死角" をほとんどもたない。
  • 極限まで四肢を単純化させ、走ることに特化した。


草食動物は、草や葉を食べて食物繊維から栄養素をとる仕組みと、肉食動物につかまらないために目と足を発達させたところに特徴があります。

とくに目は、頭の側方についていているので、草食動物の視野はとてもひろくなっています。視野には、片目で見ることのできる範囲「単眼視野」と両目で見ることのできる範囲「両眼視野」があり、草食動物は単眼視野がひろくなっています。

たとえばウマの単眼視野は、左右それぞれ約210度という広範囲にひろがっていて、見えない範囲(死角)は後方の約3度ときわめてせまくなっています。またウサギは、水平360度全方位がすべて見えています。草食動物は肉食動物にねらわれるので、その姿をいちはやく認知しなければならないため視野がひろくなっているのです。しかし両眼視野はせまく、ウマのそれは約65度です。

この両眼視野は、実は、立体視ができる範囲にあたります。たとえばネコの場合、左右の目が顔の正面についていて、両眼視野は約120度とひろくなっています。

左右の目が顔の正面についていると、左右それぞれの目の視差を脳が検出して、上下左右だけでなく前後(奥行き)の距離をつかむことが可能になります。つまり、両眼視野は三次元空間を認知できる範囲です。ネコその他の肉食動物は、獲物までの距離を正確にしる必要があるために両眼視野が発達しているのです。

人間の両眼視野も約120度とひろくなっています。これは霊長類は、森の中あるいは樹上で生活するために森の三次元構造を把握する必要があり、両眼視野が発達していたためであるとかんがえられています。たとえば目の前に木の実があるとして、手をだせばとどくのかとどかないのか見ただけで判断できます。

このように、それぞれの動物のライフスタイルによって目の位置・単眼視野・両眼視野がことなります。あるいは草食動物・肉食動物・霊長類それぞれの視覚に注目することによって、それぞれのライフスタイルや進化の様子が想像できます。

体のつくり、形態を見たら、ただ見るだけでなく、そのライフスタイルやその背後にある生態系や進化までも想像してみるとおもしろいです。


▼ 文献
『Newton 2017.5号』ニュートンプレス、2017年5月7日