情報処理あるいは能力開発の観点から散歩をとらえたとてもおもしろい本です。単なる健康本ではありません。このような「知的散歩術」を解説した本はほかにはなく、一読をおすすめします。

本書から要点をピックアップしてみます。

観察力、記銘力、想起力を高める練習を散歩を通じて行ってほしい。

しっかりと観察力を働かせながら歩いてみよう。観察する際には問題意識の有無も重要な役割を果たす。特定のテーマを掘り下げる問題意識があると、関連する情報は無意識に目に飛び込んでくるものだ。

散歩をするときには、私たちの「感じる」能力を全開にする。

同じ風景を一度見ただけで満足しないで、何度も見ることを通じて見る力と見る味わいを深めていきたい。

散歩をしながら、より大きな範囲を「手にとるように、まるごと見る目」を獲得し、「街を一望し、景色も一望して」、本当に風景を楽しんでほしい。

ループを描いて歩くと私たちの頭脳は、自然にループの内部の空間の広さをとらえようと働き出す。すると脳の中の「空間処理の領域」を用いるようになる。

どこを歩いても、その歩いた全体像を「きちんとした地図として見通しよく描く」訓練が勧められる。

自然の植物を覚えれば心が豊かになる。

庭園や植物園を巡って四季をつかむ。

散歩をしながら、生活上のいろいろなヒントや発想のヒントをつかむことを楽しむ。

哲学者のカントや西田幾多郎、作曲家のベートーベンや思想家のルソーも散歩を通して思索と創造の「時」を過ごしたことが知られている。そのような先人の例にも学んで、創造的な散歩術をマスターしてほしい。

散歩中のインスピレーションは、(1)予め問題意識を成熟させておくこと、(2)散歩中の偶発的な刺激がその問題意識にあたらしい影響を与えてひらめきを誘発する、という二つの段階によって生みだされる。

私たちに浮かんでくるアイデアは、実はその場の環境が無意識の領域に作動した結果として閃くことが少なくない。そこで、そのアイデアの続きを得たかったり、さらに深めたりするときには、もう一度その場に行くとよい。

一回の散歩が次の散歩の期待につながるようになったら、日々の散歩は連続ドラマを眺めているのと同様の楽しみに変わるのだ。

繰り返しの散歩を通じて、よく知っている場所を鮮明にイメージできるようになると、それがそのまま皆さんの心象力(イメージを描く力)の強化につながり、さらに、イメージを描く意識の場そのものも確立されてくる。これが能力開発の基礎につながるのだ。

その日その日の散歩コースで何か一工夫をして、その日だけの特徴的な体験ができたとき、その特徴となる体験のことを「目印体験」と呼んでいる。「目印体験」を生み出す工夫をする。

「目印体験」を明確に記載しておくと、思い出す際に他の散歩と区別する際に役立つ。

日付、曜日、時刻、コース、目印、感覚、発見、想起、発想、行動について記録する。

情報処理の観点から整理すると、散歩しながらの観察やその他の感覚体験は、自分の内面に情報をインプットすることであり、記憶したりイメージ(心象)をえがいたり発想をえたりすることはプロセシング散歩の記録を書くことなどはアウトプットにあたります。

 インプット:観察その他の感覚
 プロセシング:記憶、イメージ、発想など
 アウトプット:記録

同時に散歩は、情報処理の場である心身をととのえ確立することにもなります

「知的散歩術」は、情報処理に総合的にとりくめるきわめて基本的な方法であり、誰でもすぐにできる実践法です。インスピレーションや発想も、一ヵ所でじっとしているよりも散歩にでかけた方がえられやすいです。さっそく今日からこの「知的散歩術」はじめるのがよいでしょう。


文献: 栗田昌裕著『1日15分の知的散歩術』廣済堂出版、1997年