深呼吸をして呼吸をととのえることは健康促進のためだけでなく、情報処理能力をたかめるためにも重要です。
グラフィックサイエンスマガジン『Newton 2017.5号』から新連載「心肺機能と健康」がはじまりました。その第1回は「意外と知らない呼吸のしくみ」と題し、肺が酸素をとりこみ、二酸化炭素をはきだす仕組みについて解説しています。



肺胞の壁を、酸素や二酸化炭素は通り抜けることができます。肺胞から血管へ酸素が、血管から肺胞へ二酸化炭素がそれぞれ移動し、ガスの交換が行われるのです。血液は肺胞で酸素の供給を受け、二酸化炭素を捨てたのち、心臓を経由して、全身をめぐるというしくみが体にそなわっているのです。

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肺胞」とは、直径 0.3 ミリメートルほどの肺のなかにある小部屋であり、3億〜5億個もの肺胞が両肺につまっています。

わたしたちは息を止めつづけると酸素が不足してきます。それにくわえて、血中や組織中に二酸化炭素がふえてきますので、酸素を吸って二酸化炭素を排出する、すなわち呼吸をしなければなりません(図)。二酸化炭素が排出されないと、血液が、弱アルカリ性から酸性側にかたむいてしまい、生命活動に支障がでます。

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図 酸素を吸って二酸化炭素を排出する


呼吸をするときに普段よりもふかく息を吸ってみると、胸よりも腹のほうがうごきます。うごいているのは、肺の下側にそったドーム屋根のような形をした筋肉組織である「横隔膜」です。これは焼き肉の「ハラミ」にあたります。肺の容積変化は、空気の膨張・圧縮によるものではなく、横隔膜のうごきによるものです。

肺のなかの空気は環境の大気とひとつづきであり、横隔膜がさがると、肺のなかの圧力がさがり、環境から空気がながれこんできます。このような気流のながれが呼吸の原理です。




呼吸は普段は、無意識のうちに自動的におこなわれています。しかし一方で、横隔膜をつかって自分の意志で意識的に制御することもできます。

呼吸は、無意識と意識、自律系と運動系の両方にまたがった重要なはたらきです。たとえば心臓や内臓のはたらきは無意識(自律系)のはたらきですが、手足をうごかしたりする筋肉のうごきなどは意識(運動系)のはたらきです。自律系は植物的なはたらき、運動系は動物的なはたらきとかんがえてもよいでしょう。

呼吸は、これらをつなぐとても重要な機能です。

また肺にいれた空気をたくみに制御することによって声帯をひびかせることもできます。つまり、言葉をしゃべるときにも呼吸は重要な役割をはたします。呼吸の仕組みが進化したことにより、人間は言語を獲得できたのです。そして文明を発達させました。

したがって呼吸の仕組みをしり、深呼吸をして呼吸をととのえることは、健康促進のためだけでなく、人間の知性(情報処理能力)をたかめるためにも重要です。


▼ 文献
『Newton 2017.5号』ニュートンプレス、2017年5月7日