美術館にいって作品を見て、想像して、言葉にするレッスンをくりかえしていると情報処理能力がたかまります。
上野行一著・監修『五感をひらく10のレッスン 大人が愉しむアート鑑賞』(美術出版社)は、美術作品をたのしむための練習帳です。美術鑑賞の入門書としておすすめします。




美術作品を楽しく鑑賞するうえで大切なことは、自分との関係で見るということです。(中略)

作品が見る人の心に作用し、見る人の思いや考えを誘発するかぎり、作品の意味はあなたのなかに、あなた自身の意味として再構築されるのです。


つまり、作品に関する情報や知識にもとづいて作品を理解する必要はないということです。美術は考古学ではありません。言葉による認識ではなく、作品の世界と自分がいかにつながるか、それを実感するのが美術鑑賞のたのしみです。

本書では、このことをレッスンするために具体的に作品をみながらつぎの4ステップにとりくんでいきます。


  • みる
  • 考える・想像する
  • 言葉にする
  • 自分とつないで整理する


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たとえば風景画をみます。

何がえがかれているかよく観察してみましょう。

つぎに考え、想像してみます。このための簡単な方法は絵のなかにはいってみることです。絵のなかにはいって自由に散歩してみます。何が見えるでしょうか? 何が聞こえるでしょうか? どんな香りがするでしょうか? あたたかいですか? さむいですか? 五感のすべてをはたらかせてみます。今度はそこにいる人になってみます。鳥になってみます。ネコになってみます。家になってみます。

そして観察したことや想像したことを言葉にしてみます。美術館では手帳にメモします。ただし鉛筆をつかってください(入り口でかしてくれます)。

見えたもを全部を書きだしてみましょう。現地リポーターになった気分で現場の様子を報告するのもよいでしょう。書きだしたものをまとめてみると、どのようにあなたがこの絵をみたのかがはっきりします。作者のものとしてではなく、自分との関係で作品をとらえることが大切です。これが「自分とつないで整理する」ということです。




上記のステップを、人がおこなう情報処理の観点から整理するとつぎのようになります。

  • みる:インプット
  • 考える・想像する:プロセシング
  • 言葉にする:アウトプット
  • 自分とつないで整理する:アウトプット

170323 美術鑑賞
図1 美術鑑賞の方法


自分の目で見て、自分の心で感じ、自分なりに想像し、かんがえることが大切です。知識や理屈ではありません。

そのためには、美術館にいって絵画をみるときに、題名は先にみないというのもひとつの方法です。題名は後でみるようにします。また音声ガイドも、一通りみおわってから後できくのがよいです。

美術は視覚とイメージの芸術です。美術館で作品をみることは、視覚とイメージ能力(心象力)を強化することになるのはいうまでもないですが、上記の方法をつかえばアウトプット能力も高まります。これは情報処理訓練にほかなりません。


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▼ 参考文献
上野行一著・監修『五感をひらく10のレッスン 大人が愉しむアート鑑賞』美術出版社、2014年5月22日