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日本科学未来館・特別展示「Lesson♯3.11 ~学びとる教訓とは何か~」
(平行法で立体視ができます)
福島原発事故後、甲状腺がんの検査がおこなわれています。事実と解釈を区別して理解をすすめることが重要です。
東京都江東区にある日本科学未来館で、特別展示 「Lesson♯3.11 ~学びとる教訓とは何か~」がおこなわれています(注1)。

展示では、「見えないリスクを想像せよ」(巨大地震と巨大噴火、福島原発事故)と「再生可能エネルギーの選択」についての情報を提供しています。

最近クローズアップされているのが「甲状腺がんのリスク」です。福島県民健康調査では、事故時18歳以下の住民38万人を対象に甲状腺が検査がおこなわれました。
 

  • 2016年12月までに、184人から甲状腺がんないしがん疑いが見つかりました。
  • そのうち145人が手術を受けて治療を続けていいます。
  • 発見された患者数は、通常の甲状腺がん発症率からの予想より、数十倍多い値でした。


しかし福島県の説明では、つぎのデータから、見つかった甲状腺がんは「放射線の影響とは考えにくい」とし、見つかったがんの多くは、数十年後に発症するものを早期発見したのか、あるいは一生発症せずにおわる「潜在がん」だと解釈しました。


  • がんが見つかった人の原発事故による推定被ばく線量は最大でも 2.2mSv と小さい。
  • 甲状腺癌はゆっくりと進行するがんで、被ばく後4年以内に発症することはない。
  • チェルノブイリ原発事故後に多くの発がんが見られた、事故時年齢5歳以下の年齢層の患者は、福島の場合はほとんどいない。
  • 福島県内の地域別の甲状腺がん発見率に大きな差がない。


しかし一方で、つぎのデータから、「それらが近い将来発症しないものとは考えらない」という対立する解釈もあります。


  • 2巡目の検査で見つかった69人のうち、32人は1巡目検査においては何も見つからなかった人たちだった。


すなわち1巡目検査から2巡目検査までの 2.5 年間に、エコーでは見つけられない1mm 以下の大きさから、平均 11mm の大きさにまで腫瘍が急激に成長したということであり、このような性質をもつ腫瘍は「潜在がん」ではないという解釈です。




また県民健康調査では、「子どもの心の健康度を評価するアンケート調査」も実施されています。


  • 将来の健康に不安がある。
  • 住環境や地域社会が変化した。
  • 社会からの偏見がある。


このような結果から、精神的な支援を必要とするこどもの割合は、被災していない地域にくらべて福島県内においてはいちじるしく高いことがわかりました。


 

以上のように専門家の解釈は分かれています。

このような問題にとりくむ場合、何がデータで何が仮説か、何が事実で何が解釈かを明確に区別して思考をすすめることが重要です。

  • データ(事実)
  • 仮 説(解釈) 

このような思考法こそが科学的な思考であり、現代は、このような思考が万人にもとめられているのです。専門家の解釈を鵜呑みにしてはいけません。


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