ヨーヨー・マらがたちあげた「シルクロード・アンサンブル」は、異民族が共生するためには創造過程が必要であることをしめしています。
ドキュメンタリー『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』(監督:モーガン=ネヴィル、2015年、アメリカ)をみました。

世界的なチェリスト・ヨーヨー=マらが「音の文化遺産」を世界に発信するためにたちあげた「シルクロード」プロジェクトを紹介する作品です。

ヨーヨー=マらは、異文化がまじわるシルクロードにゆかりの、さまざまな歴史的・文化的・政治的背景を背負ったメンバーたちとともに「シルクロード・アンサンブル」を 2000 年に結成しました。

常識ではまったくかんがえられないあたらしい音楽創造がこのアンサンブルにはあります。ケマンチェ、中国琵琶(ピパ)、尺八、バグパイプ、バイオリン、チェロ、打楽器・・・。洋の東西をこえたさまざまな楽器が合奏し、国境をこえたハーモニーが聴衆の心のなかにひびきます。

この活動が継続されている背景には現代という混迷の時代があります。現代は紛争と分裂の時代です。民族対立は激化し、世界中でテロがおこります。このようなことが背景にあって「シルクロード」プロジェクトが今日までつづいているのです。

世界情勢をみるかぎり紛争と分裂の時代がおわる気配は残念ながらまったくありません。

しかしこのシルクロード・アンサンブルにささやかな希望をみいだすことができます。音楽創造の過程がもしあれば異民族は共存し融和できることを彼らはしめしました。

シルクロード・アンサンブルではさまざまな各民族の楽器がいりまじっていますが、創造の過程ではむしろ楽器にはとらわれないほうがよいです。楽器は、音楽創造の道具でしかありません。ましてや道具の優劣を論じたり、評価をしてもまったく意味がありません。あくまでも主役は音楽であり、表面的な構造にとらわれないことが大事です。ヨーヨー=マは、「音楽にとって最も重要なのは、心の内なる世界に入ることです」とのべています。

創造とは表現をすることです。表現をしてメッセージをつたえることです。このアンサンブルは、表現することをとおして異文化が共存し融和することは可能だという一例をつたえています。表現するとは、ひらたくいえばよくできたアウトプットをすることです。よくできたアウトプットのためには、よくできたインプットとプロセシングが必要です。

このドキュメンタリーをみて「音楽には国境がない」といった俗ないい方もできるでしょう。しかしさらに一歩ふみこんんで、異民族の共生を将来的にもし展望するなら、創造過程がどうしても必要だということに気がつくことも大事でしょう。言葉をつかっていろいろな議論をつみかさねたり、制度づくりをしていてもむずかしいとおもわれます。

シンボリックなその事例としてシルクロード・アンサンブルに注目し、またこのような努力があったということを記録し後世にのこしていくことも大事でしょう。


▼ 注
ヨーヨー・マと旅するシルクロード
シルクロード・プロジェクト

▼ 追記
本作をみていて、インタビュー(言葉による説明)が若干おおくて理屈っぽく、シルクロード・アンサンブルの演奏の場面がもっとおおくてもよかったと感じましたが、ドキュメンタリーですからこれでいいのでしょう。彼らのメッセージは十分つたわってきました。メッセージをうけとることが何事でも大切です。