人間が世界認識を拡大してきた歴史が『世界古地図コレクション』をみるとわかります。世界像が変わると世界観や価値観も変わることに気がつくことも大切です。
三好唯義編『図説 世界古地図コレクション』(河出書房) は世界地図の古地図集です。地図屏風、仏教の世界観をしめす天竺之図、プトレマイオス世界地図、中国からつたわった坤輿万国全図、幕末の新訂万国全図など、興味ぶかい世界古地図の数々を鮮明な画像でみることができます。地図に興味のある人におすすめしたい一冊です。





本書のサブタイトルが「世界像の変遷」となっているように、地図の歴史は、人間が世界をえがいてきた過程であり、世界の認識を人間が拡大してきた歴史です。古地図をたどることによって、このような世界認識の変遷を視覚的にとらえることができます。

たとえば16世紀のなかごろには、ポルトガル人が種子島に漂着したのを機に、西洋世界は日本を発見し、世界地図に日本がくわえられました。一方で日本は、世界地図をみて世界を発見しました。世界地図をとおして西洋と東洋は接触し、世界は書きかえられていったのです。

そして今日のわたしたちは、正確な世界地図や地球儀を知っているので、グローバルなひとつの共通した世界認識をもっています。しかしこのようなグローバルな認識は、人間の歴史をふりかえると比較的最近になって確立したということがわかります。




このように、わたしたち人間が世界認識をしだいに拡大してきたということは、人間がえがく世界のイメージが拡大してきたということであり、世界をイメージする人間の能力が高まったととらえなおすこともできます。人間は、世界認識をとおしてイメージ能力を飛躍的に進歩させてきたのは事実です。わたしたち人間はイメージをつかってむしろ認識を拡大してきたのです(注)。

今日の人間は誰でも、世界あるいは地球をイメージできるとおもいます(目を閉じておもいうかべることができるとおもいます)。ただどこまで鮮明にイメージできるでしょうか? 主要な国々の配置はイメージできるでしょうか? 平原や山脈の分布はどうでしょうか? 世界地図を確認して、より鮮明にイメージできるようにするとよいでしょう。

イメージ能力が高まると世界がひろがり、せまい世界から脱却できます。

こうしてグローバルな世界像が確立できると、それは世界観の変化をもたらします。さらに価値観も変わってくるでしょう。

世界像→世界観→価値観

そもそも、世界像の変化(拡大)が世界観の変化をもたらし、価値観を変えてきたという歴史を人間はもっています。本書『図説 世界古地図コレクション』をみるとそのこともわかります。

 
▼ 注
今日の人間のイメージは、太陽系、銀河系、宇宙へと拡大しつつあります。

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▼ 参考文献
三好唯義編『図説 世界古地図コレクション』(ふくろうの本)河出書房、2014年6月19日