サイエンスは歴史をうごかし、未来をも左右します。場合によってはグローバルな破滅をもたらします。科学・技術の動向をつねに注視していかなければなりません。
ジャーナリストの池上彰さんは、『はじめてのサイエンス』(NHK出版新書)のなかで、サイエンスの研究成果の利用とその結末についても解説しています。

とくに原子力の開発・利用に関する経緯についてはくわしくのべていてとてもよくわかりました。




ハーンとマイトナーの研究は純粋に科学的なものでしたが、それが原爆の製造と結びついてしまった。それはなぜかというと、二人が核分裂の原理に気づいたのは、ドイツがポーランドに攻め込んで第二次世界大戦が勃発する九か月前のことだったからです。(中略)

アインシュタインは大統領に手紙を書きました。「このままではドイツが核分裂爆弾を作ってしまう。その前にアメリカが作るべきだ」と。


この手紙がきっかけになって、アメリカは、国家プロジェクトとして核開発計画にふみきります。「マンハッタン計画」です。最終的に、のべ60万人がこの研究にあたった一大国家極秘プロジェクトでした。

そして広島・長崎です。

アメリカはソ連と当時 対立していました。そこで戦後の国際情勢をにらみ、原爆の脅威を知らしめた方がよいとかんがえ、あえて原爆を投下したのです。




一九五四年元日から読売新聞は「ついに太陽をとらえた」という大型連載を開始します。「原子力のエネルギーを使えば、地上に太陽をつくり出すことができる。人類は無限のエネルギーを手にしたんだ」というこのキャンペーンによって、多くの人たちが、「原子力の平和利用」という言葉を知るようになりました。

さらに読売新聞社とアメリカ広報庁の共催で、一九五五年の一一月から三週間にわたり、「原子力平和利用博覧会」が東京の日比谷公園で開催されました。この博覧会には、三六万人もの人々が足を運び、それを読売新聞系列の日本テレビが大々的に放送します。


こうしたバラ色のキャンペーンによって原子力に好意的な世論がもりあがっていきました。これと呼応するように、1954年度予算で、2億3500万円(現在ならば300億円以上)という巨額な原子力研究予算が国会でみとめられました。

そして福島です。

原子力発電所は、「トイレなきマンション」とよくいわれます。原発からでてくる使用済み核燃料を処理することはできません。燃料をつかえば "ゴミ" がでます。ゴミはたまる一方です。日本の原発は行きづまっているのです。




サイエンスは歴史をうごかし、未来をも左右します。科学・技術のパワーはかつてないほどに巨大になりました。場合によってはグローバルな破滅をもたらします。

科学とは、本来は、知のフロンティアを開拓する人間のいとなみでした。しかし最初は純粋な科学研究であっても、政治的・軍事的に利用されて、つかい方をあやまると大きな悲劇をもたらします。

おなじあやまちをくりかえさないためには、万人が、科学・技術の動向を注視していかなければなりません。そのときのキーワードは法則・物質・生命・環境であり、思考方法は〈疑問→データ→仮説→検証〉です。

また科学者は、すきな研究だけをやっていればいいとうのではなく、研究成果が悪用されないための監視・活動もしなければなりません。

カール=セーガンの警告をあらためてかみしめたいものです。


▼ 関連記事
科学的な思考をする - 池上彰著『はじめてのサイエンス』(1)-
生命と環境にとくに注目する - 池上彰著『はじめてのサイエンス』(2)-
科学・技術の動向を注視する - 池上彰著『はじめてのサイエンス』(3)-
物理・化学・生物・地学を関連づけて全体的にまなぶ

▼ 参考文献
池上彰著『はじめてのサイエンス』(NHK出版新書)NHK出版、2016年10月11日 

▼ 関連書籍
カール=セーガン著・木村繁翻訳『COSMOS 上』(朝日選書)朝日新聞出版、2013年6月11日
カール=セーガン著・木村繁翻訳『COSMOS 下』(朝日選書)朝日新聞出版、2013年6月11日
カール=セーガン著・野本陽代翻訳『核の冬 第三次世界大戦後の世界」光文社、1985年7月