意外にも酒は、人間の歴史のなかで大きな役割をはたしてきました。酒から歴史をとらえなおすことができます。

『ナショナル ジオグラフィック 2017.2号』では、「酒と人類 9000年の恋物語」と題して酒と人類のかかわりを歴史的に考察しています。


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アルコールには、人間を日ごろの抑制から解き放つ作用がある。このため酒は仲間と親睦を深め、神や精霊を身近に感じる助けとなる。

すべての酒は活性成分として、酵母がつくるエタノールを含む。(中略)エタノールは人間が飲める唯一のアルコールだ。(中略)エタノールは脳内でセロトニン、ドーパミン、エンドルフィンなどの放出を促進する働きがある。つまり、酒を飲むと不安が和らぎ、楽しい気分になれるのだ。

「世界各地で見つかった証拠から、アルコール飲料は人類の文化に重要な役割を果たしてきたと考えられます。この事実は、30年前にはあまり認識されていませんでした」(生体分子考古学者 パトリック・マクガバン)


人類の歴史には、農耕の開始や都市の建設、文字の発明など、いくつもの重大な転換点がありました。これらに酒が関与していたというのです。

古代の国家では国家建設(土木工事など)のために大量の労働者を必要としました。酒は、労働者への重要な報酬だったのです。

しかしこの図式は現代でも大差ありません。うまい酒を飲むために労働者たちは頑張ります。真夏に、仕事がおわってから飲む冷えたビールはこたえられません。想像するだけで力がわいてきます。

したがってもし酒がなかったら文明はなりたたなかったでしょう。

このように歴史と酒は意外にもむすびついています。むすびついているどころか必要だったのです。

しかし近年はどうでしょうか? 市民社会の構築がはじまりつつあります。酒よりも、自分の趣味を重視する若い人たちがではじめました。労働者から市民へ。これも、時代の大転換をしめしているのかもしれません。

このように酒を着眼点にして、歴史とその転換について想像してみるとおもしろいです。今回の「酒と人類」は、多くの人々が気がついていなかったあらたな視点をあたえてくれます。

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▼ 文献
『ナショナルジオグラフィック 日本語版 2017年2月号』日経ナショナル ジオグラフィック社、2017年1月30日