赤ちゃんは、出生とともに母親の体から独立し、環境に適応して生きていかなければなりません。

お腹のなかの赤ちゃんは母親の体の一部です。しかし出生(出産)の瞬間から赤ちゃんは、母親の体から独立して自力で生きていかなければなりません。生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)は人生最初のこの「一大事業」にどのようにたちむかっていくのでしょうか?

胎児から新生児へ -誕生時の劇的変化-』(Newton Kindle版)は赤ちゃん誕生時の劇的な変化についてイラストをつかって解説しています。



誕生前の胎児
胎児は、酸素と栄養素を母体からもらい、子宮という無菌室で育つ "生かされた命" ということができるのです。

出生の瞬間
肺サーファクタント(界面活性剤)どうしの電気的な反発力により、肺胞は潰れてしまうことなく、呼吸をはじめることができるのです。

生後すぐに、右心房から左心房へと開いていた扉が閉じ、つづいて、胎盤への近道だった血管も生後数時間以内に閉じるのです。

出生〜
赤ちゃんは、母親から IgG(アイジージー:特定のウイルスや細菌を無毒化する能力を持った「抗体」の一種)をゆずり受けることで、感染症などへの抵抗力をもって生まれてくるのです。

赤ちゃんは、食べるものに合わせて、消化・吸収の能力を変化させているのです。

赤ちゃんは、新生児期から乳幼児期の間だけに存在する「褐色脂肪細胞」という組織で熱を作り出しています。

赤ちゃんの脳には人生で最も多くのシナプスがありますが、不要なシナプスを刈りこむことで外の世界に適応していくのです。

赤ちゃんの神経細胞は、髄鞘化(ずいしょうか:神経細胞を保護する構造化)によって保護され、さらに電気信号の伝達速度も上昇するのです。




赤ちゃんは母親のお腹のなかにいるときは母親の体の一部でしたが、出生してからは独立して生きていかなければならなくなります。母親の体から独立するということは環境に適応して自力で生きていくということです。すなわち自分独自の環境を赤ちゃんは出生後にもつことになるのです。

したがって今度は、栄養や情報を環境からもらって、それらを消化し処理して生きていかなければなりません。そのために、口や消化器官、感覚器官や脳などを発達させていきます。口や感覚器官や肛門などは、体と環境とのあいだにあいた「窓」といってもよいでしょう。

しかし環境には、赤ちゃんにとって必要なもの良いものばかりがあるのではありません。ウイルスのような悪いものも存在します。悪いものはブロックしなければなりません。したがって環境とのあいだにブロックのためのいわば「壁」もつくっていくことになります。

こうして、赤ちゃんは自分の体と環境とのあいだに、「窓」をつくると同時に「壁」もつくっていき、「赤ちゃん-環境」系ともよぶべきシステムをしだいに確立していきます(図1)。

170114b 赤ちゃん
図1 「赤ちゃん-環境」系のモデル


こうして赤ちゃんは一人の人間に徐々になっていくのです。

このようなな、「受精卵→胎児→新生児→乳幼児」の成長の過程をみることは人間が生きる仕組みを理解することにつながり、情報処理をすすめるためにも役立ちます。


▼ 関連記事
生命の根幹となる現象を知る -「細胞はいかにして二つに分裂するのか」(Newton 2017.1号)-
多様性をもたらす仕組みを知る -「精子や卵子をつくる特別な分裂」(Newton 2017.2号)-
胎児の成長過程を一望する -『受精卵から人へ』(Newton Kindle版)-
環境に適応するように成長する 〜 DVD『赤ちゃんの不思議』〜
ホモ・サピエンスの能力を情報処理の観点からとらえなおす
現代の生命科学を概観する -『生命科学がわかる100のキーワード』(Newton別冊)-

▼ 文献
『胎児から新生児へ -誕生時の劇的変化-』(Newton Kindle版)ニュートンプレス、2015年6月9日