わたしたちの体はたった一つの受精卵からはじまりました。(2019.1.14更新)

わたしたち人間の心臓や脳・骨・指・眼などはどのようにしていつできるのでしょうか? わたしたちの体は約40兆個もの細胞でできていますが、もとをただせば、卵子と精子が母親の体のなかで融合してできたたった一つの「受精卵」だったのです。

『受精卵から人へ』(Newton Kindle版)では、受精卵から胎児が成長していく過程をイラストで解説しています。



0日:受精卵(約0.1mm)
1日:2細胞期(約0.1mm)
3日:8細胞期(約0.1mm)
4日:桑実胚(約0.1mm)
5日:胚盤胞(約0.1〜0.15mm)
6日:孵化後の胚盤胞(約0.2mm)
13〜16日:着床後、成長する胚
24日:胚子(約4.5mm)
63日:胎児(約5cm)
168日:胎児(約23cm)

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このように受精卵が、細胞分裂をくりかえして膨大な数の細胞をうみだすことによって胎児の体は形づくられます。

しかし一方で、これとは逆に細胞が死ぬことによって組織が形づくられることもあります。たとえば手足の指がそうです。細胞が死んでいき、指と指のあいだにすき間ができることによって指が形づくられます。このような細胞の死は、細胞がもつ遺伝子情報のなかにあらかじめプログラムされています。

受精卵から体が形作られていく過程は非常に複雑であり、不思議としかいいようがありません。どうしてこのようなことがおこるのか? すべてがプログラムされています。 

本書をみれば、命の誕生と不思議さを実感できます。発生学の入門書としておすすめします。



1.受精への道のり

卵巣の中で卵子は、周囲をより小さな細胞に取り囲まれ、球状の「卵胞」とよばれる構造をつくっている。


卵子は、「減数分裂」という特別な細胞分裂によってつくられます。減数分裂とは、2回の連続した分裂によって「染色体」の数を半減させる分裂です。染色体とは、生命の設計図といえる DNA が、特定のタンパク質といっしょになってよりあつまった棒状の構造のことです。

ヒトの細胞の場合は、計46本の染色体をもち、減数分裂をへて卵子は、23本の染色体しかもたないようになります。

精子も同様に、減数分裂をへて形成され、23本の染色体をもつ卵子と精子が受精によって融合することで、普通の細胞とおなじ46本の染色体をもつ「受精卵」ができあがるしくみになっています。


精子がつくられる器官である「精巣」の中には、「精細管」とよばれる細長い管が収納されている。この精細管こそ、精子が形成される場所である。


精子は、ほそながい細胞であり、頭部の直径は0.003ミリメートルなのに対し、ながさは約0.06ミリメートルもあり、ながい尾をつかって力づよく推進することができます。

精子の頭部には、遺伝情報をになう DNA がつまった核があり、中間部には、運動のためのエネルギーをうみだす器官「ミトコンドリア」がまきつくような格好で収納されています。まさに運動能力に特化した細胞です。

また精子の頭部には、核をおおう帽子のような形の「先体」という袋状の器官があり、このなかには、受精のときに卵子をおおう“壁”をこわすための酵素が収納されています。

卵子は、多数の「卵丘細胞」の層におおわれており、ここにたどりついた精子は酵素を放出して、卵丘細胞の層の細胞と細胞のあいだをつなぐ物質をこわしてつきすすみます。

その先には、さらに卵子をおおう「透明層」とよばれる糖タンパク質でできた層がまちうけており、精子は、別の酵素でそれをつきやぶっていきます。

その後、精子の細胞膜と卵子の細胞膜が融合し、精子の内部の核が卵子の内部に放出されます。この精子の核(雄性前核)が卵子の核(雌性前核)と合体することで「受精」が完了します。



2.受精卵から胎児へ

受精卵は、細胞分裂(卵割)をつづけながら、子宮へと向かう。受精卵が細胞分裂してできた、細胞の集まりは「」とよばれる。この段階の胚は、「透明帯」とよばれる層におおわれている。


受精から5〜6日後、胚は、子宮に到達します。このころには細胞数は200個ほどになっており、透明帯がやぶれて、胚が外にでるという現象がおきます(孵化)。

胚は、はじめのうちは、「子宮のミルク」とよばれる分泌液によって栄養をうけ、その後は、子宮の壁にくっつき、うまっていきます。これが「着床」です。

受精後第4周にはいると、それまではたいらな単なる円盤のようだった「胚盤」は生き物らしく一気になります。このころを「胚子」とよびます。



3.臓器・組織の発達

受精後4週ごろになると、食道(前腸)にふくらみが生じ、これが気管のおおもとになります。はじめは、気管と食道はつながっていますが、あいだにすぐに“壁”が生じて別々の管になります。

消化器系の臓器も初期の胎児では単純な1本の管です。この管のおおもとは「卵黄嚢」とよばれる袋状の組織が胎児の体にとりこまれてできます。

胃は、受精後第4週ごろに出現します。肝臓のもとは、受精後第3週のおわりごろかに腸からつきでるようにして発生します。膵臓のもとは、受精後第5週ごろに別々の場所に二つにわかれて発生します。その後、一方が腸の管をぐるっとまわりこんで、もう一方に接近し、合体し、慣性系の膵臓になります。


眼は、脳の一部が顔の表面に近づいていくことで形づくられるのである。


受精後第4週ごろ、脳(前脳)の組織が左右にのびていき、顔の部分の表層に接近し、「眼胞」とよばれる構造をつくります。これが眼に発達します。


脳は、胎児の頭部から尾部に向かって伸びる「神経管」とよばれる組織からつくられる。神経管は、脳や脊髄(背骨に沿って走る神経組織)などの中枢神経系や、眼などのもととなる管状の組織である。


受精後4〜5週ごろになると、神経管の頭側の部分に複数のふくらみがあらわれます。一番先端にできる左右のふくらみが大脳にのちに発達する「終脳」です。大脳とは、左右の大脳半球(左脳と右脳)からなり、言語機能や思考など高度な機能を有する部位です。成人では、大脳が、脳全体の約85%のおもさをしめるようになります。

大脳の表面は、はじめはツルツルとしたなめらかな面ですが、しだいにしわができています。大脳の表面は「大脳皮質」とよばれ、大脳の高次の機能をになっており、しわをつくることによってその表面積をふやします。




消化器官ははじめは単純な「管」でした。単純な管が、腸、胃、肝臓、胆嚢、膵臓などに分化します。腸はもっとも原始的な器官です。そして管の入口は口に、出口は肛門になります。こうして食物をとりいれ、消化し、排泄をおこなうしくみができあがります。

脳は、「神経管」とよばれる管状の組織からつくられます。神経管が、眼、脳、脊髄、神経組織などに分化します。神経管の先端は眼などになり、その中枢は脳になり、手や足などに神経はいきわたります。こうして、眼から情報をとりいれ、脳で処理し、筋肉などに信号をおくるしくみができあがります。

食物をとりいれたり情報をとりいれたりすることは「インプット」、食物を消化したり情報を処理したりすることは「プロセシング」、排泄したり、筋肉をつかって体をうごかしたり声を発したり文字をかいたりすることは「アウトプット」といってもよいでしょう。

こうして、「インプット→プロセシング→アウトプット」のしくみをもった人間がうまれてきます。発生学をまなぶと、消化や情報処理のしくみがどのようにしてできあがっていくのかよくわかります。とくに、眼ができるしくみは興味ぶかいです。


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▼ 参考文献
『受精卵からヒトへ』(Kindle版)ニュートンプレス、2015年

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