すっぱい味は水素イオンによるものです。水素イオンをとらえることによってさまざまな現象を客観的定量的に認識できるようになりました。

グラフィックサイエンスマガジン『Newton 2017.1号』の「シリーズ:水素の科学」第3回は「すっぱい物質の正体とは?」と題して酸味や酸の性質について解説しています。



子どものころに、「炭酸飲料を飲んでばかりいると、歯が溶けてしまうよ!!」と注意されたことがある人もいるのではないでしょうか。実は、炭酸飲料で歯が溶けてしまうのは、本当のことです。炭酸飲料が酸性の液体だからです。


この現象は、虫歯菌が糖からつくる酸(乳酸など)とは無関係におきます。つまりシュガーレスの炭酸飲料であっても歯は酸で溶けてしまいます。酸性の炭酸飲料がそれほどすっぱく感じられないのは、甘味料がたくさんはいっているからです。したがってコーラなどはあまり飲みすぎない方がよいでしょう。


レモンやミカンなどの柑橘類の果樹や、酢やヨーグルトなどの発酵食品は、すっぱい味がします。現在では、すっぱい味は、食べものや飲みものに含まれる水素イオン(H+)によるものであることがわかっています。(中略)

舌の表面の突起の側面などには「味蕾」(みらい)とよばれる味を感じる "センサー" があります。(中略)

水素イオンが、味蕾にある酸味の味細胞にくっつくと、水素イオンがくっついたことを知らせる伝達物質が神経細胞に向けて分泌されます。そして、電気的な刺激が脳の神経細胞へと伝わって、脳が「すっぱい」と感じるのです。

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これが酸味を感じる仕組みです。したがって食べ物そのものがすっぱいのではなく、そこには水素イオンがあるというのが事実であり、すっぱさ(酸味)は脳がつくりだしているということになります。味蕾はセンサー、脳はプロセッサーであり、情報処理の結果として酸味(という情報)がつくりだされるとかんがえるとわかりやすいでしょう。




科学的には、この酸味を、ヒトの味覚という主観で認知しているだけでは不十分であり、すっぱい物質である酸をもっと客観的にとらえなければなりません。

そこで「リトマス紙」や「pH」がかんがえだされました。イギリスの科学者ボイル(1627〜1691)は、青いリトマス色素を赤く変色させる液体を酸としました。またデンマークの科学者セーレンセン(1868〜1939)は、水素イオン濃度を「10のマイナス何乗か」であらわすことを提案しました。これが pH(水素イオン濃度指数、ピーエイチまたはペーハー)です。pH が7の液体を中性、pH が7未満の液体を酸性、pH が7より大きい液体を塩基性(アルカリ性)といいます。

たとえば胃の中の水分の pH は、食事前の空腹時が1〜2であり、食事をとると4〜5に上昇します。その後2〜3時間かけてふたたび1〜2にもどります。食べ物を胃が消毒したり、たんぱく質を分解できるのもこの酸のおかげです。しかし精神的なストレスや暴飲暴食がつづくと必要以上に酸が分泌され病気になります。これが「胃酸過多」です。このときに飲む薬は酸と中和反応をおこすものになります。


また海水の pH は海面ちかくで平均約 8.1 です。この海水のpH が、産業革命(1750〜1800年頃)以降およそ 0.1 さがったと推測されています。これを「海洋酸性化」といいます。炭酸カルシウムの殻をもつ生物に悪影響がでてきています。




以上のように、すっぱい物質(酸)はヒトの味覚で主観的に知覚するものでしたが、水素イオン(H+をとらえることによって味覚をはなれて、いろいろな現象を客観的定量的に認識できるようになりました。科学の進歩の一例をここにみることができます。


▼ 引用文献
『Newton』2017年1月号、ニュートンプレス、2017年1月7日