甲骨文字からはじまった漢字文化は芸術の域にまで達しました。そこでアウトプットされるものは符合ではなく作品です。

東京富士美術館で、特別展「漢字三千年 - 漢字の歴史と美 -」が開催されています(注1)。第二部では「漢字の美」と題して、さまざまな書家などの作品をとおして、書体の美や、芸術の域にまで達した漢字文化についてみることができます。



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書くための道具類(平行法で立体視ができます)
漢字は、書く道具と書かれる素材によってその形をかえてきました。紙が発明されたことにより(注2)、その表現は一気に自由になり、あたらしい漢字の文化が創造されました。
立体視のやり方 - ステレオグラムとステレオ写真 - >>



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成化款青花磁百寿瓶(せいかかんせいかじひゃくじびん)
(平行法で立体視ができます)
「寿」という漢字をすべてことなる書体で書いた「百寿図」が書かれています。




漢字は最初、イメージをシンボル化することによってつくりだされました。そして情報の伝達や記録、国家の統治、概念や思想の形成などのためにつかわれ、大きな役割をはたしました。

しかし漢字の役割はそれにとどまりませんでした。漢字のアート化がおこったのです。漢字をつかって表現する文化が発達したのです(注3)。

単なる情報伝達がおわったところからアートがはじまります。単なる情報伝達をこえたところにアートがあります。アートは表現するもの、つくりあげるもの、クリエイトするものです。漢字にかぎらず、文化が発展していくとアート化がかならずおこります。そこにおいてアウトプットされるものは符号ではなく作品となります。

このように、情報処理あるいはアウトプットには、初歩的な段階から高度な段階までの発展段階があり、今回の特別展では、「甲骨文字」からはじまってアートの域にまで達した漢字文化の発展をくわしくたどることができました。

アートとしての漢字は、わたしたち人間の身体や精神をつかってこれからも発展し、あるいは洗練されていくのだとおもいます。




ところで今日、漢字は、コンピューターの世界にくみこまれるというまったくあたらしい段階に入りました。これから漢字はどうなっていくのでしょうか。かつては、東アジア地域には「漢字文化圏」が存在しましたが、今では、漢字をつかいつづけている国は中国と日本だけになりました。

そして漢字は「書く」ものではなく、(キーボードを)「打つ」もの、あるいは「音声変換する」ものに基本的にかわりました。これは史上空前の変革です(注4)。実用的には漢字は、書けなくても読めればいいという情勢になってきています。このような変化に対して、たとえば学校教育はおいつけていないというのが現状です。実用的な漢字の運用方法については国家レベルで早急に検討する必要があるでしょう。


▼ 注1
特別展「漢字三千年 - 漢字の歴史と美 -」
会場:東京富士美術館
会期:2016年10月20日~12月4日
※ 会場内は撮影が許可されていました。
※ 東京展終了後、京都、新潟、宮城、群馬に巡回します。

▼ 注2
製紙技術は前漢中期に中国で発明されました。その技術が西域につたわったのはずっとのちになってからの8世紀です。793年にバグダッドとダマスカスに、900年前後にはカイロに製紙工場がつくられました。紙は、安価でつかいやすい素材として世界中に普及し、各地の文明の発展のためにおおきな役割をはたしました。

▼ 注3
文字のアート化という現象はほかの表音文字ではあまりおこらず、表意文字だからこそ一層おこりやすかったといえるでしょう。

▼ 注4
紙の発明は、歴史的にみて非常におおきな出来事でした。しかし人間は、20世紀になって、コンピューターとインターネットを発明しました。これらは1990年代に全世界に普及し、今日では、デバイス(パソコンやスマフォなど)をつかって電脳空間(サイバースペース)に情報をアウトプットするようになりました。紙の時代がおわって電子情報化の時代に転換したということは、紙の出現にまさる非常におおきな歴史的変革であったといえます。