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陸士仁(りくしじん)『四体千字文巻』(よんたいせんじもんかん)
(漢字の初級読本) 
『千字文』はすぐれた識字教科書であり、複数の漢字をくみあわせて情報を統合する実例をみることができます。

東京富士美術館で、特別展「漢字三千年 - 漢字の歴史と美 -」が開催されています(注1)。 歴史的な数々の作品をとおして、漢字あるいは書き言葉の発展の歴史を詳細にたどることができます。

およそ3000年前から中国人は、イメージをシンボル化して漢字をつくりだしてきました。

一方で、たくさん漢字ができあがってくると、今度は、それらを人々におしえる必要が生じてきました。こうして『千字文』という、漢字を習得するための教科書が生まれました。

『千字文』は、合計一千字の漢字を一句四字の韻文に重複せずにまとめたものです。

最初、南朝・梁(りょう)の周興嗣(しゅうこうし、470-521年)がつくりました。完成当初から高く評価されて各地にひろまり、中国のみならず朝鮮や日本でも、漢字をまなぶための教科書としてつかわれました。

四体千字文巻』(写真)は明代後期の書家、陸士仁の作品です。陸士仁は、篆書、隷書、草書、楷書の四書体で『千字文』を書きました。1614年から書き始め、3年後の1616年に完成させました。

 


漢字は元々は、一つのイメージに対して一字をあたえて成立してきたものですが、その後、複数の漢字をくみあわせることによってより高次元の意味を生みだしたり、より高度な内容(メッセージ)を相手につたえたりすることができるようになりました。

漢字をくみあわせるという手法はより高次元のアウトプットを可能にし、情報処理や情報伝達を飛躍的に進歩させました。これは漢字文化の創造といってもよいでしょう。

ただし漢字をくみあわせるといっても、くみあわせることによってあらたな意味が生じたり、概念や思想が表現できるようでなければなりません。ここには、複数の情報(ファイル)がうまく統合される仕組みが必要です。ここに、くみあわせと統合という情報処理のひとつの本質をみることができます。




四体千字文巻』は、四字を一句にして韻をふんでリズミカルにつくられ、内容も平易で実用的なため、読みやすく記憶もしやすく、急速に普及しました。日本にも伝来して漢字教育の原典となりました。