特別展「禅 心をかたちに」をみるときには、個々の作品だけでなく、それらが配置されている展示室(場あるいは空間)にもしっかり心をくばるようにすると心がゆたかになります。

東京・上野の東京国立博物館で特別展「禅 心をかたちに」が開催されています(注1)。臨済宗・黄檗宗の本山・末寺から名宝を一堂にあつめ、 禅の歴史・禅の美術・禅の文化を通覧しようという企画です。禅の至宝を通じて、日本文化の発展にはたしたその役割を知ることができます。


161105 フロアーマップ
図1 会場のフロアーマップ(作品リスト資料より)

 第1展示室 禅宗の成立
 第2展示室 臨済禅の導入と展開
 第3展示室 戦国武将と近世の高僧
 第4展示室 禅の仏たち
 第5展示室 禅文化の広がり


今回はつぎの3段階を実践してみました。

  1. 展示室をみる
  2. 展示品をみる
  3. おもいおこす


1. 展示室をみる
会場内をどんどんあるいていき、展示作品にはとらわれずに、それぞれの展示室の状況を見ていきました。

会場にはいるとすぐ左手にフロアーマップがしめしてありますので、その図をまずはしっかり記憶します。そしてフロアーマップをおもいうかべながらあるいていきます。どのような立体空間(3次元空間)にそれぞれの展示室がなっているか、壁の位置、色、模様、照明などに心をくばりました。

第1展示室はせまい部屋でした。第2展示室は折れ曲がった機械的な部屋です。寺のなかをあるいているような感覚です。第3展示室はあかるい部屋です。第4展示室はとても印象的な部屋です。照明が極端におとされ神秘的な空間がひろがっています。第5展示室は開放的な雰囲気の部屋です。くらい部屋がしだいにあかるくなっていきます。そして出口です。



2. 個々の展示品をみる
会場入口にふたたびもどり、今度は、音声ガイドも利用しながら、各展示室に配置されている個々の作品を順番にじっくり見ていきます。

第1展示室「禅宗の成立」:達磨が、インドから中国へ渡来し、中国で禅宗が成立した歴史がわかります。「臨済義玄像」はこわい顔をしています。

第2展示室「臨済禅の導入と展開」:「蘭渓道隆座像」は必見です。本来の姿に復元されています。この部屋では、臨済宗・黄檗宗の開祖や本山についてひととおり概観することができます。

第3展示室「戦国武将と近世の高僧」:武将とそのブレーンとして活躍した禅僧たちの様子がわかります。臨済宗は基本的に権力とむすびついていました。

第4展示室「禅の仏たち」:今回の特別展でもっとも印象的な作品の数々が見られます。「羅怙羅尊者」(らごらそんじゃ)は必見です。仏は各自のなかにいます。インド人を強調したような顔をしています。インドに行ったことがあるのでわかります。「釈迦十大弟子」もいいです。

第5展示室「禅文化のひろがり」:「四季花鳥図」や「群虎図」が印象的でした。ここは芸術の世界です。比較的 気楽にたのしめます。


3. おもいおこす
ひととおり見おわったら、休憩所の椅子にすわって、いま見てきたことを目をとじておもいおこします。言葉ではなくイメージで想起します。

フロアーマップをおもいだしながら、それぞれの展示室をじっくりイメージします。さまざまな作品は各部屋の空間のどこに配置されていたでしょうか。




今回の特別展のテーマは「禅 心をかたちに」でした。

心をかたちに」したものが、会場に展示されているさまざまな作品です。国宝22件、重要文化財102件を一気にここにあつめたといいますから大変なことです。臨済宗・黄檗宗の十五派本山が協力してこれだけの規模で展覧会を開催するのは100年に一度しかないかもしれません。

それぞれの作品は、禅僧や絵師や仏師が心のなかにイメージしたものを表現した(アウトプットした)ものであり、わたしたち鑑賞者は、彼らのイメージングを追体験できる仕組みになっています。

心のなかに生じるそのような「かたち」は心象ということもできます。したがって今回の特別展は心象をテーマにしていたとみることもでき、心象法(イメージ訓練)をするときの参考にすることもできます。

しかし一方で、「心をかたちに」するときには、「かたち」だけにとらわれていたのでは片手落ちです。「かたち」が生じた心の場、「かたち」をとりかこむもっと大きな空間にも注目したほうがよいでしょう。

したがって「心をかたちに」といったときには、心の場と「かたち」の両者が必要です。

たとえば今回の場合は、展示室は場(空間、入れ物)ととらえることができます。そして展示室のなかにそれぞれの作品が配置されていました。作品は、場に対して要素とか対象といってもよいでしょう。したがってつぎのような対応関係をかんがえることができます。

  • 展示室:心の場
  • かたち:作品


わたしは今回は、個々の作品よりも、展示室の場(展示の空間)の方に重点をおいてみました。このようなことをすると心がおちついていきます。

わたしたちは、要素や対象につねに意識がいきがちですが、そららが配置されている空間や場にももっと意識をくばるようにするとよいでしょう。具体的には、何かをみたら、その背景や環境や経緯といった全体的状況もとらえるようにします。シンボリックにあらわすと図2のようになります。

161105 場
図2 立方体は場、球は要素




今回の特別展の展示室は、わかりやすさを優先した親しみのある構成になっていました。むずかしい禅に初心者でもちかづけるようにという配慮のあとがみられ、企画者の心づかいがうかがえます。

特別展で展示されている個々の作品は歴史上の人物がつくったものですが、展示室は、今回の特別展を企画した人あるいは設計した人がつくったものです。5つの展示室は、企画者が心にえがいたことを顕在化させたものであり、まさに「心をかたちに」したものでした。特別展の良し悪しは展示室のつくりかたにもあらわれます(注2)。




禅宗は、中国からつたえられた仏教の一派です。日本への導入は、鎌倉時代から南北朝時代にかけての臨済宗を中心におこなわれ、それとともに、宋・元の美術や喫茶の風習も日本にもたらされました。江戸時代には、臨済禅のながれをくむ黄檗宗がつたわり、明時代末期の美術が日本にはいってきました。また臨済宗中興の祖・白隠は、教化のために多数の書画を制作し、禅画の先駆者となりました。こうして禅は、中世以来、日本文化の形成に大きな役割をはたしました。

今回の特別展は、このような禅宗美術の至宝の数々をみられるまたとない機会になっています。


▼ 注1
特別展「禅 心をかたちに」(特設サイト)
特別展「禅 心をかたちに」(東京国立博物館)
会場:東京国立博物館 平成館
会期:2016年10月18日 ~ 2016年11月27日
※ 会場内は撮影禁止でした。

※ 今回の特別展は臨済宗を中心に展示しており、道元を開祖とする曹洞宗に関する展示はありませんでした。曹洞禅については下記をご覧ください。

特別展「禅の心とかたち 曹洞宗大本山 總持寺の至宝」
会場:名古屋市博物館
会期:2016年10月15日〜2016年11月27日

▼ 注2
特別展は、歴史上の制作者と現代の企画者との合作とみることもできます。歴史上の作品をただならべただけでは特別展にはなりません。どのような展示空間にするか、どのような作品配置にするか、どのような展示のながれにするか、企画者の腕のみせどころです。こうして歴史上の制作者と現代の企画者とが共鳴したときにすぐれた特別展がうまれます。空間と作品の両者のシンクロナイズが必要だということです。

▼ 追記
展示室(展示空間)は、第一には、情報を内面にインプットする場です。しかしそれからさらにすすんで第二に、展示空間は、プロセシング(処理)の場にもなります。このようなやり方は、情報処理をすすめるための心の場づくりに発展していくでしょう。