DSCF3683ab
五感を体験できる部屋(平行法で立体視ができます)
 
五感をとぎすますことは、意識の内面へ情報をインプットするために必要なことです。課題を明確にして対象に心をくばるようにします。

東京都江東区にある日本科学未来館で、企画展「The NINJA - 忍者ってナンジャ!?-」が開催されています(注1)。

忍術書や現代科学をとおして忍者の姿にせまり、これからを生き抜くヒントをさぐろうという企画です。




忍者は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚)を情報をえるためにフルにつかい、わずかなちがいを敏感に感じとって状況判断をしていました。

視覚(視る):忍者は、ロウソクにともした炎をみて視力をやしなったといいます。暗闇で活動するときにそなえ、普段から視覚をきたえていました。

聴覚(聞く):聴覚をきたえるために、背後で針を落としてもらい、おちた針の本数を言いあてる修業をしていたそうです。ときに、大勢の会話のなかから特定の人の声をききわける訓練もしたといいます。

嗅覚(嗅ぐ):たとえば人のにおいからその人の職業を推察していました。

触覚(触る):暗闇のなかでは、手の感覚をたよりに周囲の状況を判断しなければならないことが多いです。人間の指は感覚神経が多く、非常に小さなものでも完治できます。忍者は、触れている物を暗闇でも想像して判断していました。

味覚(味わう):忍者は、火薬の調合時になめてたしかめるなど、味覚のするどさももとめられていました。

たとえば嗅覚に関して、汗や尿にふくまれる「アンドロステノン」という匂いは3人に1人しか感じとれないことが知られています。しかし感じとれない人たちに毎日10分間、3週間にわたってこの匂いをかいでもらったら感じとれるようになりました。これは、鼻ではなく脳の嗅覚系の能力が訓練によって向上したためであるとかんがえられています。

このように訓練によって感覚を進歩させることができます。




感覚(五感)は、意識の内面に情報をインプットする機能です。情報処理の第一場面であり、感覚なくして情報処理ははじまりません(図1)。そして感覚でえれれた情報にもとづいて状況を判断するのはプロセシング、行動したり報告するのはアウトプットといえるでしょう。

160914 五感
図1 五感は、情報をインプットする機能
 

五感をきたえるために、技術的・身体的な訓練をすることも大切ですが、意識を対象にもっていくということも大事です。

たとえば昆虫に関心があるならつねに昆虫を意識しながら生活するようにします。日本史に興味があるなら日本史につねに心をくばりながら生きていきます。海がすきならつねに意識を海にもっていくようにします。このようにある対象も意識をもっていく、配心するだけでもおもしろいように情報がインプットされてきます(注2)。

身体訓練や技術訓練にくわえてこのような意識のもちかた(心のくばりかた)に注意をはらうとよいでしょう。配心は、情報インプットの究極であるといっても過言ではありません。おろそかにはできません。




忍者は、「心・技・体」の総合的な力をかねそなえた人々だったそうです。

本展の出口のところには、来館者へのあらたなミッションがいくつかしめされていました。そのなかには「スマホにたよりすぎない」というミッションもありました。現代は、物や道具があふれかえっていますが、これらに依存しすぎるのはよくありません。みずからの「心・技・体」をきたえることが重要なことは忍者も現代人もおなじです。



 
忍者の背景には、日本独特の伝統的な価値観があります。自分の名が世に知られることがなくても、あたえられた任務を実直に耐え忍んでこなしていくという忍者の精神は、日本人の伝統的な生き方をよくあらわしています。忍者の中には、日本の発展をささえてきた「知恵のある忍耐力」という日本文化が凝縮されているとみることもできます。

このような忍者の観点から日本文化や日本史をとらえなおしてみるのもおもしろいとおもいます。外国人むけの観光資源としても有望でしょう。


▼ 注1
企画展「The NINJA - 忍者ってナンジャ!?-」
会場:日本科学未来館
会期:2016年7月2日~10月10日

▼ 注2
誰でも、すきな分野に関してはその分野への配心を日々おこなっているのでおのずと情報がはいってきて、それらの処理もすすみます。「好きこそ物の上手なれ」ということです。それに対してきらいな分野については、物理的に無理にインプットしようと努力していても、意識はどこかほかにいってしまっているのでインプットがうまくいかず情報処理もすすみません。そもそも何を対象にするか、何に関心があるのか、問題意識や課題をあらかじめ明確にしておくことが重要です。

▼ 関連記事
対象を意識して、情報をインプットする
「心ここに在らざれば、視れども見えず、聴けども聞こえず、食らえどもその味を知らず」
取材のまえに問題意識を鮮明にしておく - 取材法(3)-