放射性物質とは、放射性同位体をふくんでいる物質のことです。放射性同位体とは、原子核が不安定であるためこわれたり変化したりする原子のことです。福島原発事故をふまえ、放射性物質と原子力に関する理解をふかめ、物理学者と技術者の動向を監視していかなければなりません。

グラフィックサイエンスマガジン『Newton 2016.10号』のシリーズ「元素と周期表」第4回(最終回)では「放射性物質とは何か?」と題して放射性物質について解説しています。



放射性物質の「放射性 」という用語は「放射線」をだすことに由来します。放射線とは、高いエネルギーをもつ粒子やの流れや光(電磁波)のことです。

放射性物質にふくまれる原子核は不安定であり、しばらくするとこわれたり変化したりします。そのときに副産物として放射線がでます。

原子核が不安定で、こわれたり変化したりする原子を「放射性同位体」といいます。放射性物質とは、この放射性同位体をふくんでいる物質のことです。

放射性同位体が放射線をだすのは、不安定な原子核が、より安定な原子核になろうとするからです。 

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1895年11月、ドイツの物理学者ヴィルヘルム=レントゲンは、クルックス管(二つの電極をもち、内部の気圧を真空にちかづけたガラス管)をつかった実験中に、目には見えない未知の何かの存在に気がつきました。これは透過力が高く、紙やヒトの体を透過して写真乾板に黒い像をつくりました。レントゲンはこの未知の何かを「X線」と名づけました。

フランスの物理学者アンリ=ベクレルは、X線とおなじような未知の線がほかにもあるかもしれないとかんがえて実験をし、1896年3月、ウラン塩(ウラン[U]をふくむ結晶)が写真乾板に黒い像をつくっているのを発見しました。この未知の線は「ベクレル線」と名づけられました。ベクレルは実験をかさね、ベクレル線をウランがみずからだしていると結論づけました。

1898年には、ポーランド出身の物理学者マリー=キュリーがトリウム(Th)からもおなじような線がでていることを発見しました。またマリーと夫のピエール=キュリーは、おなじような線をだすポロニウム(Po)とラジウム(Ra)も発見しました。

こうしてX線の発見が、放射性同位体の発見につながっていったのです。




放射性同位体の原子核は不安定です。その理由はつぎの3つです。
  • 中性子または陽子の数が多すぎる。
  • 中性子と陽子の両方が多すぎる。
  • 原子核が高いエネルギー状態にある。

中性子の数が多すぎる放射性同位体は、原子核の中性子1個が陽子1個にかわり、電子が1個放出されます。この高速でとびだしてくる電子が「ベータ線」といわれる放射線です。

中性子と陽子の両方の数が多すぎる放射性同位体はヘリウム原子核を放出することがあります。このヘリウム原子核の流れが「アルファ線」です。

原子核が高いエネルギー状態にある放射性同位体は、原子核から電磁波をだします。この電磁波が「ガンマ線」です。




さて放射性同位体とくれば原子力発電所です。原子力発電は、ウランを主成分とする核燃料をつかって発電します。核燃料にふくまれるウランはほとんどがウラン238ですが、ウラン235が3〜5%ふくまれています。ウラン235の原子核に中性子が1個吸収されると二つに分裂し、中性子が2〜3個放出されます。このときに膨大なエネルギーが放出され、これを利用して発電しているのが原子力発電所です。

原子力発電にともない、ウランから、さまざまな放射性同位体が生じます。

ウラン235からは分裂のしかたにより、たとえばセシウム137とルビジウム95が生じます。さらにセシウム137はベータ線をだしてバリウム137mに、ルビジウム95はベータ線をだしてストロンチウム95になります。

一方、ウラン238は、ウラン235の核分裂で生じた中性子を吸収してウラン239になります。ウラン239はベータ線をだしてネプツニウム239になり、ネプツニウム239はベータ線をだしてプルトニウム239になります。




原子力発電所の核燃料は、ウラン235が約1%程度に減るまで使用されて「使用済み核燃料」になります。使用済み核燃料は、ウランとプルトニウムが化学的処理によって回収されたあと、「高レベル放射性廃棄物」になります。

この高レベル放射性廃棄物には、回収しきれなかったウランとプルトニウムと、それ以外のさまざまな放射性同位体がふくまれます。

たとえばセシウム137の半減期(放射性同位体が崩壊をおこしてもとの個数の半分になるまでの時間)は約30年であり、プルトニウム239の半減期は約2万4000年です。高レベル放射性廃棄物がだす放射線の量が十分に減衰するまでには10万年以上の時間が必要です。




人間は、大変なものをつくりだしてしまいました。

物理学の基礎研究や純粋な科学研究をしているだけだったらよかったのですが、それを応用して、原子力発電所と原子爆弾をつくってしまいました。物理学の発展は、人間を幸福にする面と不幸にする面の両面があるのはもはやあきらかです。

東京電力福島第一原子力発電所の事故をふまえ、物理学の発展と応用を物理学者と技術者だけに全面的にまかせるのではなく、わたしたち一般の人間が彼らの動向をつねに監視していかなければなりません。そのためには放射性物質や原子力に関して基本的なことは知っておく必要があります。グラフィックサイエンスマガジン『Newton』が役立ちます。


▼ 文献
『Newton 2016年10月号』ニュートンプレス、2016年10月7日