蝦夷のリーダー阿弖流為(アテルイ)は、大和の征夷大将軍・坂上田村麻呂をむかえうちます。二人の決戦のゆくえは。

シネマ歌舞伎『阿弖流為〈アテルイ〉』(注1)をみました。

シネマ歌舞伎『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』
『阿弖流為〈アテルイ〉』特設サイト


古き時代、日の国。大和朝廷は、帝による国家統一のために北の国・蝦夷(えみし)に攻めこみます。むかえうつ蝦夷は、阿弖流為(アテルイ)をリーダーにかつぎだして立ちあがります。大和朝廷は、坂上田村麻呂を征夷大将軍にすえ、一気に決着をつけようとします。阿弖流為と田村麻呂、雌雄を決するときがやってきました。


阿弖流為と田村麻呂との戦いが実に見事です。しかし二人は対立しつつも共鳴していきます。
 
この人間ドラマの背景には、蝦夷と大和との戦争、そして大和による蝦夷の征服という歴史があります。
 
蝦夷の人々は、ゆたかな自然のなかで自然と一体となってまっすぐに生きていました。それに対して大和の人々は、野蛮人とよんで見下す蝦夷を退治しようとし、一方では陰謀と策略、出世争いと権力闘争にあけくれていました。

これは、観点をかえれば自然と文明との対決とみることもできます。文明は自然を支配しようとし、そのために野蛮だとおもうものはすべて撲滅し消毒しようとします。しかし文明の内部には矛盾がみちあふれています。

自然と文明は熾烈な闘争をくりひろげていきます。自然はどこまでも抵抗します。しかし「荒覇吐(あらはばき)の神殺し」という衝撃の場面がやってきます。

自然と文明はいつかは共鳴することができるのでしょうか?

『阿弖流為』、すぐれた作品です。歌舞伎の伝統と現代文明のテクノロジーとがみごとに調和しています。作者とキャスト・スタッフらに敬意をあらわすとともに、すくなくとも歌舞伎の世界には未来があると感じ希望がもてました。 


▼ 注1
シネマ歌舞伎『阿弖流為〈アテルイ〉』
作:中島かずき 
演出:いのうえひでのり
阿弖流為:市川染五郎
坂上田村麻呂:中村勘九郎
立烏帽子/鈴鹿:中村七之助