今回から、『発想法』(中公新書)のなかの中核部分である第 III 章「発想をうながすKJ法」(65〜114ページ)について解説していきます。

第 III 章「発想をうながすKJ法」は次の7つの節からなっています。「備品・探検・記録」「グループ編成」「KJ法A型図解法」「KJ法AB型による文章化」「叙述と解釈をハッキリ区別せよ」「ヒントの干渉作用」「累積的KJ法」。

わかりやすくするためにこれらを次のように4つの場面に整理します。

 第1場面:「備品・探検・記録」(66-73ページ)
 第2場面:「グループ編成」「KJ法A型図解法」(73-94ページ)
 第3場面:「KJ法AB型による文章化」「叙述と解釈をハッキリ区別せよ」「ヒントの干渉作用」(94-111ページ)
 第4場面:「累積的KJ法」(111-114ページ)

今回は、第1場面「備品・探検・記録」をとりあげます。その要点をピックアップすると次のようになります。
 
備品を用意
 ペン、紙片などを用意する。

主題を決める
 何を問題にするかというテーマ(主題)を明確にする。

探検
・ 内部探検
 ブレーンストーミングをおこなう。
・外部探検
 問題のもっと積極的な解決のためには外部探検をおこなう。 
 
記録
 事実・意見・アイデアなどを、ひと区切りの内容ごとに圧縮し、エッセンスを紙片に書きだす。

これらを要約すると、主題を決めて、「探検」→「記録」という手順になります。

これらの過程を、現代の、情報処理(インプット→プロセシング→アウトプット)の観点からとらえなおすと次のようになります。

外部探検とは取材のことであり、目でみたり耳できいたりして心のなかに情報をインプットすることです。また、内部探検(ブレーンストーミング)では、過去にすでに心のなかにインプットされている情報をつかいます

記録とは、情報の要点を書き出すこと(単文につづること)でありアウトプットに相当します

そして、探検と記録の中間の過程は、見たり聞いたりしてインプットされた情報のどれ(何)を記録するかを心のなかでかんがえる過程であり、そこでは情報の選択(あるいは評価)がおこなわれており、プロセシングに相当します。わたしたちは、自分にとって重要な事柄を中心にして記録をとっているわけです。また、ブレーンストーミングは心のなかを内観して、すでにインプットされている情報を想起したり評価したり操作したりする過程であり、これもプロセシングに相当します。

これらを要約すると次のようになります。

 インプット:探検(取材)する
 プロセシング:情報を選択する
 アウトプット:記録をつける(単文につづる)

これらは全体としてひとつの情報処理の過程になっています。情報処理をつよく意識することが今日では大事です。

次に、これらにについて詳説します。

*備品
 次の物品類を用意します。
 (1)黒色ペン
 (2)赤色・青色・緑色のペン
 (3)クリップ多数
 (4)輪ゴム(必要に応じて)
 (5)紙片あるいは付箋(75X25mmを推奨)、ラベルなど
 (6)A3用紙
 (7)ワープロ
 (8)机・テーブル

備品として用意する物品として、本書『発想法』では、色鉛筆もあがられていますが、色ボールペンあるいはサインペンでよいです。

本書では、紙片として「名刺大の紙片」があげられています。これでもよいですが、今日では付箋あるいはラベル(シール)が便利です。大きさは、 個人でおこなう場合は 75X25mm の大きさが推奨できますが、決まりはなく自分のつかいやすい大きさでよいです。大きすぎるとたくさんひろげたときに場所をとり、小さすぎると文字が記入しにくくなります。

なお今後、紙片あるいは付箋などを総称して「ラベル」とよびます

*主題設定
自分の心のなかをじっくり内観し、本当は、自分はどんなことにとりくみたいのか、何を問題にしたいのかというテーマをはっきりさせます。単純な行為ですが、問題解決の出発点としてとても重要なステップです。


1. インプット:探検(取材)する
外部探検としては、観察や聞き取りにより心のなかに情報をインプットします(くわしくは本書第 II 章を参照してください)。

ブレーンストーミングをおこなう場合は、心のなかにすでにインプットされている情報をつかうので、あらたな取材は省略してかまいません。

発想法初級ではブレーンストーミング(内部探検)のみおこない、外部探検は中級でおこないます。


2. プロセシング:情報を選択する
テーマ・課題をめぐり、重要な事柄、関連情報は何であるかかんがえます。直観も重視します。

ブレーンストーミング
ブレーンストーミングは集団でもできますが個人でもできます。まずは個人でやってみるのがよいでしょう。

心のなかに過去にインプットされた情報(心のなかにすでにある情報や記憶)をおもいだします。心のなかを内観しながら、すでにインプットされている情報を活用します

 個人でおこなう場合
・ブレーンストーミングを個人でおこないます。
・自分の心のなかをじっくり内観します。
・記憶を想起しながら、事実・意見・アイデアなど、テーマに関係のありそうなことなら何でもだしていきます。
・他人からえられた情報も想起します。

数人の会議でおこなう場合
・参加者の意見をできるだけはきだします。
・アイデアだけでなく、関連的な知識もあつかいます。
・多種多様な意見をだすようにします。
・ブレーンストーミングの批判禁止の条項はとくに有効です。
・事実報告や見解もはきだします。



3. アウトプット:記録をつける
事実・意見・アイデアなどの情報を、ひと区切りの内容ごとに圧縮し、エッセンスを「ラベル」に書きだします。紙片や付箋やラベルなどを総称して「ラベル」とよびます。
1枚1項目とし、 単文につづり、 述語までしっかり書きます。 
・コンテキスト(文脈)をおもんじます。
・内容の意味や構造をころさないまま、その細部をきりすてて圧縮します。
・抽象化しすぎないことが大切です。
・書きだす付箋の枚数は約50枚を推奨します。枚数はなるべく多い方がよいですが、多すぎると後の処理に時間がかかり、少なすぎると実施しても意味がないので、まずは、50枚ぐらいがよいと経験上いえます。
・「発想をうながすKJ法」の第一場面である、取材(探検)から記録をつけるまでの一連の作業を「ラベルづくり」とよぶことにします。 


最後にもう一度、「ラベルづくり」の方法(ラベル法)を整理すると次のようになります。〔インプット→プロセシング→アウトプット〕の過程になっています。

取材する → 情報を選択する → 単文につづる


文献:川喜田二郎著『発想法』(中公新書)中央公論社、1967年6月26日