160411 仮説形成
図1 想像の3段階

明確な想像をするためには、事実を見たら、課題をめぐる前提をふまえてイメージをえがくようにするとよいです。

国立科学博物館で開催中の「恐竜博 2016」(注)ではスピノサウルスの発見についても展示・解説しています。

モロッコで発見されたスピノサウルスの標本をもとに、2014年、あらたにその全身骨格が復元されました。全長は15m、非常に大きな獣脚類の恐竜でした。

スピノサウルスは、前肢が長かったことから前足を地面につけて四足歩行をしていたかんがえられます。またこれまでに発見されていた獣脚類の骨は中が空洞になっていましたが、スピノサウルスは大腿骨の中が空洞になっておらず、重い骨をもっていました。


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写真1 スピノサウルス(平行法で立体視ができます)


中空になっていない重い骨の構造は水生生物に多く見られます。比重が大きい物質は水中にしずみます。水生生物は、みずからの骨を重くして水の中にとどまっていられるようにしていたのです。

これらのことからスピノサウルスは、四足歩行で姿勢をひくくして水の中にひそんで生きていた、水生生活をしていたと想像されました(写真2)。


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写真2 スピノサウルスの生態復元図(注2)




以上の推理の過程を整理するとつぎのようになります。

スピノサウルスの化石の発掘と骨格の復元から次の事実(データ)が得られました。
  • 前肢が長い。
  • 中空になっていない重い骨をもつ。
そして水生生物の一般的特徴、物質の比重などを確認しました。これは、課題をめぐって推理の前提となること(原理や法則など)を確認したことになります。

これらをふまえて、スピノサウルが水生生活していたという想像しました。想像するとは仮説をたてることでもあります。

つまり〈事実 → 前提 → 想像〉(図1)という過程がありました。




物を見て何かを想像するときにこのような過程をふまえると想像はより明確なものになります。

たとえば自然の探究であれば、何かを観察したら(事実を見たら)、自然の法則や物質に関する基本的な知識を前提にして想像をするようにします。

前提となる知識を豊富にもっているかどうかは重要なことです。課題となる分野の基本的な知識を常日頃から増やしていく努力が必要でしょう。前提をふまえないで物を見ただけで想像するとまちがった結果や妄想におちいってしまいます。




スピノサウルスは水生生活をしていたと想像されました。水生生活をしていた恐竜はこれまでには見つかっておらず、スピノサウルスは恐竜学上の大発見となりました。恐竜には、空に進出したものがいた一方で水中に進出したものもいたのです。

恐竜が生活する領域が次第にひろがっていく様子が進化論的にあきらかになりつつあります。近年の恐竜学はとてもエキサイティングです。


▼ 注
会場:国立科学博物館
会期:2016年3月8日(火)~6月12日(日)

▼ 参考文献
真鍋真監修『恐竜博 2016』(展覧会カタログ)朝日新聞社発行、2016年
※ 展覧会場のショップで購入できます。

▼ まとめ記事
想像や推理の方法を知る - 国立科学博物館「恐竜博 2016」(まとめ&リンク)-