火山ほど危険と娯楽とが表裏一体になった場所はありません。火山災害にはどのようなものがあるかを知り、気象庁のウェブサイトで火山の危険度をあらかじめ調べておくようにします。

川手新一・平田大二著『自然災害からいのちを守る科学』(岩波書店)の第2章の2では「火山災害で気をつけること」として以下のような解説をしています。

火山の噴火にともなう災害には次ぎのようなものがあります。
  • 一次災害:溶岩流、火砕流、火山泥流、噴石、火山灰、火山ガスなど
  • 二次災害:土石流、山崩れ、津波など


■ 溶岩流
玄武岩質の溶岩は珪酸分が少なく粘性が低いため、まるで川のようになって地形にそって とおくまでながれます。1983年の三宅島雄山の噴火による溶岩流や、1986年の伊豆大島三原山の溶岩流は山麓の市街地までおよび大きな被害をあたえました。

一方、安山岩質の溶岩流は秒速数十cm以下でゆっくりとながれ、その間に冷えてかたまっていきます。その表面は、ゴツゴツとした大きな塊がつみかさなったようになり、玄武岩質の溶岩流のように長い距離をながれることはほとんどありません。浅間山の鬼押出しや桜島の溶岩流などがその例です。しかし粘性がやや高いため、ガス成分の圧力が高くなって爆発的な噴火をしばしばおこすことがあります。

このように火山の噴火様式には、溶岩があふれだすような噴火と爆発的噴火があります。日本には爆発的噴火をする火山が多いので注意が必要です。


■ 火砕流

火砕流とは、高温の火山ガスと大量の火山灰・軽石などの火山噴出物とが混然一体となって高速でながれくだるものです。本体部の温度が 500℃ 以上となり、噴煙を高くふきあげながら秒速 100m ちかくの高速ですすんでくる非常に危険な現象です。

1991年の雲仙普賢岳の噴火では火砕流によって44名が犠牲になりました。火砕流は速度が非常に速いのでもっとも恐ろしい自然現象のひとつといってもよいでしょう。


■ 火山灰
日本の多くの火山は火山灰も放出します。火山灰は、上層の風にのってとおくまではこばれてひろい範囲に降下して堆積します。火山のないところにも広範囲に被害をおよぼします

火山灰が大量にふると、家屋や道路や耕作地が灰でうまったり、視界の低下、航空機のエンジントラブル、水質汚濁などがおきます。また微細な灰が人体にすいこまれて健康被害をもたらします。雪とはちがって水に溶けてなくならないのでその後の処理も大変です。

2010年と2011年のアイスランドの火山の噴火では、火山灰がヨーロッパ全体にふり、飛行機がとべなくなりました。日本における歴史的な火山灰被害としては、300年前の富士山の宝永噴火(1707年)があります。火山灰は南関東全体にふり、富士山東麓で数m以上、小田原付近で数十cm〜1m、江戸でも約5cm つもりました。


■ 火山ガス
活動中の火山からは、二酸化炭素・二酸化硫黄・硫化水素・塩化水素などの有毒な気体がふくまれています。これらは大気よりも重いので、凹地や谷底などの低いところにとどこおることがあります。

伊豆三宅島の雄山の2000年からはじまった噴火では、高濃度の二酸化硫黄ガスの噴出がながいあいだつづいたため、全島民が5年間の島外避難をしました。


■ 土石流と火山泥流(ラハール)
火山噴火の二次災害としておそろしいのが土石流と火山泥流(ラハール)です。噴火がひと段落したとおもっても油断はできません

噴火によって放出された火山噴出物が、噴火後の降雨によって土石流となってながれくだってきます。あるいは雪や氷河の解けた水などと火山噴出物が一体になり高速でながれくだることもあります。これは火山泥流(ラハール)とよばれます。

1926年の北海道十勝岳の噴火により火山泥流が発生、山麓の富良野町をおそい、140人以上の犠牲者がでました。


■ 津波
噴火にともなう山体崩壊などで発生した大規模な岩屑なだれが海に突入すると津波が発生します。

1792年の雲仙岳眉山の山体崩壊では津波が発生し、対岸の肥後(現在の熊本)沿岸に大きな津波がおしよせました。犠牲者は、島原側で1万人、熊本・天草で5000人に達し、日本では史上最大の火山災害となりました。




以上のように火山はとても危険なものです。しかし一方で、そこには風光明媚な景色がひろがり、温泉宿もたくさんあり、登山や旅行でおとずれる人が多く、アクセスも比較的よいので一大観光地になっています。山麓でくらしている人々だけでなく多くの日本人にとって火山は身近な存在です。

したがって火山ほど危険と娯楽とが表裏一体になった場所はありません。ここにむずかしさがあります。

まずは、山や山麓に行くときにその山が火山なのかどうかを確認しなければなりません。その山が火山である場合は下記のウェブサイトをみて危険度をしらべます。避難小屋と避難ルートをあらかじめ確認しておきます。


一番おそろしいのは突然の火山噴火です。噴火がおこったらすぐに避難すること以外にできることはありません。


▼ 引用文献
川手新一・平田大二著『自然災害からいのちを守る科学』(岩波ジュニア新書)岩波書店、2013年5月21日
自然災害からいのちを守る科学 (岩波ジュニア新書)  


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