沿岸地域で避難場所を見直すにあたっては、津波堆積物の調査と歴史記録とを照合して過去の巨大津波がどこまで遡上してきたかを知る必要があります。
日本科学未来館(注1)の「Lesson#3.11:5年前、そして5年間に起きたこと」(注2)では津波堆積物と津波の歴史記録についても展示解説しています。

地層の調査により、およそ1000年前の津波による砂の層が宮城県で発見されました。この津波をひきおこした地震はマグニチュードが8以上であったと推定されています。
 
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津波の証拠となる堆積物(展示パネルより)
およそ1000年前の地層から津波堆積物がみつかった(産業技術総合研究所)


一方、『日本三代実録』という平安時代に編纂された歴史書に1000年前の巨大地震について記録されていました。地震は、平安時代初期の貞観11年(西暦869年)におこり、地震や津波が陸奥国(現在の東北地方)にもたらした被害が詳細に記述されています。
 

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貞観地震のことを記した『日本三代実録』(展示パネルより)
(写真提供:国立公文書館、
参考文献:保立道久『歴史のなかの大地動乱』岩波新書、2012年)




こうして地層の調査(地質調査)と歴史記録との照合ができました。これは過去の巨大津波について知るための重要な方法です。

実は、貞観地震とそれにともなう巨大津波があったことは東日本大震災がおこる前にわかっていて、一部の地質学者が警告をしていました。しかし誠に残念なことにそれが広報されることはなく事実上無視されていました(注3)。

津波堆積物の調査と歴史記録との照合は全国各地の沿岸でおこなわれていますし、おこなわれていないならただちにおこなうべきです。そうすれば巨大津波がどこまで遡上してきたかがわかります。避難場所はそれよりももっと高い場所にしなければなりません。

決してできないのに地震予知ができるみないな間違ったことを言う地震学者よりも、堆積物の調査ができる地質学者の方が確かなことを言っています。

避難場所を見直すときにこの知見を役立てください。



▼ 注1
日本科学未来館 


▼ 注2
Lesson#3.11 パネル展示「5年前、そして5年間に起きたこと」

▼ 注3
だいたいにおいて地質学者はいわゆる「開発屋」からは大変きらわれています。地質学者は活断層などを各地で発見することもきらわれる原因になっています。

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